気になる病気のお話⑫

◆免疫の病気◆~自己免疫疾患、アレルギー

免疫のしくみ
私たちが普段生活している身の回りには、さまざまな細菌やウイルスがウヨウヨしていますが、そう簡単に感染しないし、感染しても治るのは私たちの体には免疫という機能があるからです。

病原体を見つけると、まずは好中球が反応します。しかし、ある程度病原体を食べると自らもパンクしてしまいます。そこで出動するのがマクロファージで、好中球よりもたくさん病原体を食べていきます。さらに、病原体の断片をHLAという特殊なたんぱく質にくっつけて、敵の情報をT細胞に知らせます。

T細胞はこれを調べて、自己(自分の体の成分)か非自己(自分以外の異物)かを確認し、異物(抗原)と判断するとB 細胞に抗体をつくらせ全面的な戦争が開始されます。一度抗体がつくられると次に同じ病原体が侵入しても、速やかに抗体が働くため病気を発症せずにすみます。

しかしまれに、自分の体の成分(自己)に対して抗体(自己抗体)をつくってしまうことがあります。これが「自己免疫疾患」で、抗体が自分の体を攻撃するために全身にさまざまな症状が現れます。膠原病や関節リウマチ、橋本病などがあります。また、アレルギー反応」といって、抗体がある異物に過剰に反応してしまうこともあります。花粉症やアレルギー性鼻炎はアレルギー病です。

自己成分に対する免疫不応答の維持が破綻し、免疫系が自己を攻撃するようになったものが「自己免疫」であり、外来異物に対して必要以上に反応し生体に不都合が生じるようになったものが「アレルギー」なのです。

◎自己免疫疾患とは?

自己免疫現象とは、抗体またはT細胞が自己の抗原と反応する現象です。そして自己免疫現象の結果引き起こされるのが「自己免疫疾患」です。生体には自己との免疫応答を抑制するさまざまなメカニズムがありますが、それらが破綻すると自己免疫疾患が引き起こされます。
自己免疫疾患には、標的抗原と組織傷害が1つの臓器に限局している「臓器特異的自己免疫疾患」と、生体に広く分布している抗原が主体になって多臓器にわたる傷害が見られる「全身性自己免疫疾患」と呼ばれるものがあります。

臓器特異的自己免疫疾患
代表的なものに、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、バセドウ病)、アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、潰瘍性大腸炎、原発性胆汁性肝硬変症、膜性腎炎、重症筋無力症、多発性硬化症、リウマチ熱、尋常性天疱症、水晶体誘発性ブドウ膜炎などがります。

全身性自己免疫疾患
全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、混合性結合組織病などがあり、まとめて「膠原病」とも呼ばれています。

膠原病に含まれる病気にはいくつかの共通点が見られます。細胞と細胞の間を埋める組織を結合組織といい、なかでも細胞同士をしっかり繋いでいるのが膠原線維(コラーゲン線維)です。この膠原線維に変性が起こるため「全身性結合組織病」とも呼ばれます。さらに、炎症による発熱、関節痛、筋肉痛、強ばりなどの共通症状があり、自己抗体もみられます。
膠原病に含まれる病気には、①免疫異常が見られることから「自己免疫疾患」として扱われたり、②結合組織に病変が見られることから「結合組織疾患」として扱われたり、③骨・関節や筋肉の痛みと強ばりがることから「リウマチ性疾患」として扱われることもあります。
 
関節リウマチは全身の関節の滑膜が侵される病気です。関節の骨と骨の間にはクッション役の軟骨があり、軟骨と骨を包む膜が滑膜です。その滑膜に慢性的な炎症が生じると腫れて熱を持ち痛むのです。やがて滑膜細胞は増殖し、骨や軟骨に食い込み関節を変形させ、固めてしまいます。

関節リウマチには、①自分の体の成分を攻撃する「自己免疫疾患」としての側面と、②なかなか治らない「慢性炎症」としての側面と、③滑膜細胞が増殖して周りの組織に食い込む「腫瘍のような病気」としての側面があります。

自己免疫疾患に用いる漢方薬としては、免疫がらみの初期には桂枝湯類、麻黄剤や黄連解毒湯などの抗炎症作用の強い処方を、中期には柴胡剤や四物湯を、抗病反応の低下した後期には人参・黄耆剤を選択します。古典にいう脾・肝・腎の調節によって根本的な免疫是正を図るということです。

関節リウマチに用いる漢方薬は、
風痺・・・葛根湯、防已黄耆湯など
寒痺・・・疎経活血湯、桂枝加朮附湯、舒筋丸など
湿痺・・・薏苡仁(よくいにん)湯、麻杏薏甘(よっかん)湯 、防已黄耆湯、二朮湯など
熱痺・・・越婢加朮湯、白虎湯、桂枝加芍薬知母湯など
頑痺・・・大防風湯、独活寄生湯、舒筋丸など
体質治療(免疫是正)には、柴胡剤、地黄剤、人参・黄耆剤を用います。 
                                      
*「よく」という字は、“くさかんむり”に意、「い」は“くさかんむり”に以と書きます。

参考図書:膠原病教室(橋本博史著・新興医学出版社)、免疫(矢田純一著・東京化学同人)、新しいリウマチ治療(後藤真著・講談社)、いかに弁証論治するか(菅沼栄著・東洋医学出版社)、好きになる免疫学(萩原清文著・講談社)、漢方診療レッスン(花輪寿彦著・金原出版)他

◎アレルギーって?

免疫とは、自分の体を病原微生物などの異物から護る仕組みですが、この機能が時には体を傷害するように働いて病気の原因となることがあります。外来異物(抗原)に対して必要以上に過剰に反応して体に不都合が生じるようになったものが「アレルギー」なのです。非自己の抗原に対して引き起こされた免疫応答なのですが、反応が過度であることにより副次的に組織障害が起こるもので、自己免疫疾患とは異なり、免疫系には本質的な異常はないのです。

アレルギーは、抗原と接触してから発症するまでの時間によって、「即時型過敏症」と「遅延型過敏症」に分類されます。即時型では抗原と反応してから2~3分で障害反応が現れ、10数分で反応の強さが最高になります。このタイプの過敏症は抗体による障害反応です。遅延型では、抗原と反応後、数時間経って障害反応が現れ始め、最高の強さになるのに24~48時間かかります。このタイプの過敏症はリンパ球のT細胞によって発症します。

アレルギーは発症機構から4つの型に分類されます(5つに分類する人もいます)。
Ⅰ型:IgE抗体による過敏症(喘息、花粉症、鼻炎、蕁麻疹など)
Ⅱ型:IgG、IgM抗体による細胞障害(細胞融解反応・・・血液型不適合)など
Ⅲ型:免疫複合体による過敏症(アルサス反応、血清病など)
Ⅳ型:細胞性免疫による過敏症(ツベルクリン反応、接触性皮膚炎など)

Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ型アレルギーは抗体による即時型過敏症であり、Ⅳ型は遅延型過敏症です。狭義にはアレルギーとはⅠ型アレルギー反応を指し、IgE抗体が関与した全身性または局所性に急激に起こる過敏反応をいいます。
Igとは免疫グロブリン(immuno globulin)の省略で抗体のことです。抗原に結合しないしっぽの部分の形によりIgG、IgA、IgM、IgD、IgE型の5つに分けられます。

アレルギーの漢方薬治療には、
①気管支喘息:柴朴湯、麻杏甘石湯、神秘湯、小青竜湯、柴胡桂枝乾姜湯、半夏厚朴湯などを
②花粉症・アレルギー性鼻炎:小青竜湯、麻黄附子細辛湯、苓甘姜味辛夏仁湯、葛根湯加川芎(せんきゅう)辛夷などを
③アトピー性皮膚炎:黄連解毒湯、四物湯、消風散、治頭瘡一方、十味敗毒湯、黄耆建中湯などを
症状に応じて用います。

*「きゅう」という字は、“くさかんむり”に弓と書きます。

アレルギー・マーチ
アレルギーで心配なことは、アレルギーが連鎖して新たな症状に進行することです。アトピー性皮膚炎(0~2歳)気管支喘息(3~7歳)アレルギー性鼻炎(12歳)と、アレルギーが関連する現象を「アレルギー・マーチ」と呼んでいます。生体側のいろいろな生理的条件によって、食品アレルギーに始まり、ダニアレルギー、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎と年齢とともに症状が変化していくことをいいます。

アレルギーの発症を決定づけるIgE抗体がつくられるか否かは、子どものころの食べ物や細菌感染などによって大きく影響を受けるらしく、幼児期からTh1人間になるように努めることが、アレルギーにならない秘訣であろうといわれています。

参考図書:免疫(矢田純一著・東京化学同人)、新免疫の不思議(谷口克著・岩波書店)、漢方診療のレッスン(花輪寿彦著・金原出版)他