気になる病気の話M

◆その他の病気◆〜慢性疲労症候群、ドライシンドローム、歯周病

◎慢性疲労症候群とは?

忙しい現代社会では子どもも若者も、中年の方もお年よりも皆が疲れています。では、疲れって何でしょう?疲れとは睡眠不足とか、夏バテとか、人間関係の問題とか、たくさんのストレスなどが私たちの体や心にかかってきた負担の結果といえます。疲労は、身体が健康を維持するために現れる防御反応や兆候で病気とは区別されます。しかし、疲れているという体からのサインを無視して働きつづければ、やがて疲弊死を迎えることになるでしょう。

現代社会には疲労を引起こす要因が多く存在し、疲労感は、精神的な要因に大きく影響され個人差もあります。疲労の原因には次のようなものが考えられています。
@エネルギー産生の低下・・・栄養不足や細胞内でのエネルギー産生機能の低下による
A疲労物質の蓄積・・・疲労物質の蓄積により筋肉の収縮が妨げられる
B体内の恒常性の失調・・・汗をかくことにより浸透圧などの体内恒常性が失われる
C脳の調整力の失調・・・ストレスなどで情報処理や神経伝達物質の分泌のバランスの乱れ

近年の研究では疲労物質としての「乳酸の蓄積」については否定的になっており、むしろ、乳酸は老廃物ではなく有効なエネルギー源とされています。

疲労には休息をとることで回復する「通常の疲れ(生理的な疲れ)」と、「病気の疲れ(病的な疲れ)」があり、どちらにも『免疫物質』が関係していることがわかってきました。

半年以上続くような原因不明の疲労を「慢性疲労症候群」と呼んでいますが、この病気は感染症やストレスが誘因となって引き起こされた神経系・内分泌系・免疫系の変調に基づく病態であり、TGF・βやインターフェロンなどの免疫物質の異常が引き起こす脳・神経系の機能障害であることがわかってきました。

慢性疲労症候群の患者で見つかる感染症は、種々のヘルペスウイルスの再活性化による慢性感染症であることが多く、免疫力の低下と関連していると考えられます。

人の体では、こうしたウイルスの再活性化状態に陥ると、免疫系が反応してインターフェロンやTGF・βといったサイトカインをつくりだします。その時脳は、免疫細胞にウイルスを攻撃するように指令を出しますが、ストレスなどで免疫力が低下していると、再活性化したウイルスの活動を抑えることは難しくなります。

さらに困ったことに、これらのサイトカインにより脳や神経細胞の活動までが損傷を受け、その結果、疲労感や倦怠感を招き、しかも長期にわたって持続するのです。
体の疲れは脳、特に大脳皮質が感じていること、脳で疲労感を演出するのはTGF・βなどのサイトカインやセロトニンなどの伝達物質であることがわかってきました。

乳酸が疲労や慢性疲労症候群などに関わるセロトニンに影響を与えることがわかってきました。乳酸がセロトニンの再吸収を亢進させ、結果的にセロトニン枯渇状態を作り出すことで疲労を発生させることがわかっています。

疲労に使う漢方薬は、補中益気湯を中心に六君子湯、防已黄耆湯、八味地黄丸、小建中湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などをい組み合わせて用います。

参考図書:危ない!「慢性疲労」(倉恒弘彦、井上正康、渡辺恭良・NHK出版)、和漢生薬研究所資料ほか

◎ドライシンドロームってなに?

口が渇く(ドライマウス)、目が乾く(ドライアイ)、肌が渇く(ドライスキン)、膣が乾く(ドライバジャイナ)など全身の乾燥症状の訴えを「ドライシンドローム」といっています。「乾燥症候群」で医学でも認められている病気の症状です。背景には、エアコンによる冷房病、ストレス社会、コンピュータ社会、テレビ視聴、口呼吸、よく噛まない食生活、欧米型食生活などの生活環境の問題とともに女性ホルモンの働きが密接にかかわっています。

ドライスキン(乾燥肌)
ドライスキンとは、皮膚の水分や皮脂量が不足して皮膚が乾燥した状態です。皮膚の一番外側にある角質層には約33%の水分が含まれており、この水分が減るとカサカサした乾燥肌になります。乾燥肌になる背景には、アトピー性皮膚炎や魚鱗癬(サメ肌)などのほか、年齢による変化など内的因子があります。アトピー性皮膚炎の人はアトピックドライスキンといって、乾燥してバリアー機能が低下した皮膚症状をもっています。ドライスキンでは細胞間物質のセラミドが角層組織から減少するか機能低下しているために、角層から水分が失われバリアレス状態になるので、刺激に敏感になったり、皮膚が乾燥したり荒れたりするのです。原因はボディシャンプーなどで洗いすぎること、老化・加齢によるセラミドの減少です。

ドライアイ(乾き目)
ドライアイとは、涙が少なくなって目の表面が乾いてしまう病気です。涙が足りないと目は乾いて傷つきやすい状態となります。目の疲れを感じる人の6割ほどがドライアイということです。頻繁にまばたきする人、目薬をさすと楽になる人、目が充血しやすい人、光をまぶしく感じる人などはドライアイの可能性が強いそうです。特に目の疲れを感じている人はドライアイである可能性が高いといわれます。ドライアイには涙の分泌量が減るタイプとある程度進行すると涙が出るタイプがあります。VDT作業従事者やコンタクトレンズ装着者は要注意といわれています。

ドライマウス(口腔乾燥症)
ドライマウスは、唾液の分泌量が減ってきて、口の中が乾く病気です。口の中の粘膜は、乾燥してしまうと固くなって傷つきやすくなり、細菌なども繁殖しやすくなります。唾液の分泌量の低下は、虫歯や歯槽膿漏にかかりやすくなり、口内炎や口角口唇炎、舌炎、舌痛症、口臭、味覚障害などが起こり、ひどい場合は嚥下困難まで生じてきます。ドライマウスの自覚症状は、口や喉の乾きのほか、声がかすれる、舌がしびれる、口の中が泡っぽいと訴えはじめます。原因は糖尿病、薬の副作用、がんなどの治療で放射線を浴びた場合やシェーグレン症候群などが、また高齢による唾液腺の萎縮、ストレスにより唾液が分泌しにくいことなどもあります。

ドライバジャイナ(膣の乾燥)
女性の場合、閉経後は女性ホルモンのエストロゲン分泌が急激に低下し、その結果皮膚や粘膜は乾燥しやすくなり、膣の乾燥も生じてきます。膣口後部にあるバルトリン腺から出る分泌液が膣の湿潤を保っています。この分泌液はエストロゲンの分泌量に依存していて、エストロゲンのレベルが低下すれば分泌液も少なくなります。分泌液が少なくなれば炎症を起しやすくなり、腟炎の原因ともなります。特に膣周辺の粘膜が乾燥しヒリヒリする痛みや性交痛を生じるドライバジャイナに悩む女性は多いといわれ、最近では若い女性でも膣の乾燥に悩まされる人が増えているそうです。

漢方薬は滋潤剤(地黄・麦門冬・知母・人参など)を中心に、症状に応じてその他を組み合わせて用います。

参考図書:乾燥するカラダ(坪田一男編著・宝島社新書)、皮膚の医学(田上八朗著・中公新書)他

◎歯周病は全身に悪影響を!!

歯周病とは、歯周病菌が原因で歯茎などに炎症が起きる病気です。大量の歯周病菌を含む歯垢を放置すると、歯肉に炎症が起きて赤く腫れます(歯肉炎)。炎症が広がると、歯と歯肉の間に「ポケット」ができ、そこに歯周病菌が繁殖します。歯肉炎が悪化し土台の歯槽骨が溶けて歯が抜けます。ポケットの深さが4mm以上になると、歯槽膿漏と診断されます。

厚生労働省の調査によると、歯槽膿漏など重い歯周病にかかっている人の割合は45〜74歳の約半分を占め、歯肉炎まで含めると成人の8割がかかっているといわれます。入れ歯になると、味がわかりにくくなるほか、ものを噛む感覚が脳に届かず、脳の働きにも影響するといわれます。

さらに虫歯や歯周病が原因で、心臓や腎臓、またアレルギー性の病気など、一見、歯となんの関係もない場所に別の病気を引き起こしてしまうこともあるのです。歯周病がつくる毒素や炎症を引き起す物質は、歯周病の病巣から血液中に入り、全身に影響を及ぼします。口の中の慢性的な炎症や糖尿病、心内膜炎、心筋梗塞、肺炎、早産による低体重児出産などとの関連性が報告されています。

歯槽膿漏などに使う漢方薬は、排膿散及湯を中心に症状に応じてその他を組み合わせて用います。

参考図書:さらば歯周病(河田克之著・新潮新書)、歯から始まる怖い病気(波多野尚樹著・祥伝社)他