気になる病気の話①

◆産婦人科系の病気◆~不妊症・子宮内膜症・子宮筋腫・更年期障害

女性性器は外性器と内性器にわけることができます。内性器には卵子をつくって毎月排卵したり、女性ホルモンを分泌するなどの働きや、妊娠時には受精卵を胎児として育てる役目もあります。外性器には排尿や性交、月経血の排出など重要な働きをしています。

産婦人科の代表的な病気にはカンジダ症・性器ヘルペスなどの外陰炎、トリコモナス・カンジダなどの腟炎、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮頚管ポリープ、がん(卵巣、子宮、乳腺)、切迫流産、更年期障害などがあります。

◎不妊症、不育症、習慣性流産

「不妊症」とは、生殖年齢の男女が妊娠を希望し、一定期間通常の性生活を行っているにもかかわらず、2年以上経過しても妊娠しない場合をいいます。しかもその原因は多様で多岐にわたっています。原因の特定に至らず、3割近い女性が「機能性不妊」と診断されることもあるようです。また、不妊の原因は単一とは限らず、複数の原因が絡み合っているほうが多いといわれています。

2年間の根拠は累積妊娠率という考え方によるものです。不妊の原因がないカップルが1回での排卵周期で妊娠する確率は約20%~30%と考えられています。不妊因子のない100組のカップルがいて妊娠率を20%とすれば、第1回の排卵周期で20人が妊娠し、次の周期で残りの人の20%が妊娠し・・・1年後には94人が妊娠することになります。実際のデータでも、約50%が3ヶ月以内、約70%が6ヶ月以内、約90%が1年以内に妊娠しています。

不妊症は一度も妊娠を経験していない「原発不妊」と、妊娠や分娩を経験してから不妊となる「続発不妊」とに区別されています。妊娠はするものの、2回連続で流産した場合を「反復性流産」、3回以上連続で流産した場合を「習慣性流産」といい、現在、一般的には反復流産、習慣性流産を合わせて「不育症」といっています。不育症とは、妊娠したのに妊娠を持続できず、健康生児に恵まれない症例を指すものといえます。

不妊症の頻度は全夫婦の10~15%といわれています。不妊症の原因は女性だけとは限りません。現代社会では、男性不妊も増加傾向にあり、その比率は1:1ともいわれています。

女性の不妊の原因としては、大きく分けて
①排卵障害による不妊(多嚢胞性卵巣症候群など)、
②卵管の詰まりによる不妊(子宮内膜症など)、
③着床障害による不妊(子宮筋腫・子宮奇形など)が挙げられます。

男性の不妊の原因としては、
①機能的因子=勃起不全・射精不全(90%以上が心因性)
②精子の質の問題(精子の数・運動率)が挙げられます。

特に結婚年齢の高齢化(晩婚化)、ストレス、食生活、運動不足、住環境(冷房)、環境ホルモンなどの影響により生じる体の冷え・ホルモンバランスの乱れなどが与える影響は無視できません。また不妊に悩む女性の約3分の1に子宮内膜症が存在し、不妊と密接な関係にあるといえます。

いつでも妊娠できると考えているが、それは誤解である」と警告する医師もいます。「男子は20歳であれ40歳であれ精子の質はほとんど違いが認められないが、20歳と40歳の女性の卵子では妊娠しやすさに格段の違いがある」ということです。何故、女性が高齢になると妊娠しづらくなるのか、それは卵子の質そのものが低下してくるからです。卵子の質が良くないと分割がうまく進まなくなるのです。卵子が年をとるということは、妊娠が困難になることだけでなく、流産率の上昇、染色体異常の上昇とも密接に関係しています。

せっかく妊娠しても流産するケースが増えています。一般的に妊娠と診断された方のうち約15~20%は流産するといわれています。最も多いのが妊娠12週未満の流産です。反復流産、習慣性流産の原因には、染色体異常、子宮異常、クラミジア感染、内分泌異常、免疫異常などがあります。

子宮異常」には、先天的な子宮の奇形、子宮筋腫などによる子宮の変形、子宮内の炎症などによる子宮内腔の癒着、子宮頚管無力症などがあります。

内分泌異常」には、黄体機能不全、高プロラクチン血症、黄体化ホルモン分泌異常、甲状腺機能異常、耐糖能異常などがあります。

免疫異常」には、自己免疫異常(抗リン脂質抗体症候群)と同種免疫異常があります。

最近、2人目不妊が増えています。1人目はすぐにできたのに、2人目がなかなかという方が多いようです。妊孕能は22~23歳がピークで30歳を過ぎるあたりから少しずつ低下し始め、40歳を過ぎると急減します。まず夫婦生活を振り返ること、器質的な問題は出産後にも生じ得るので検査をすることです。これまでの生活を見直してみることで手がかりを見出すことができることも多いようです。

不妊治療としては、人工授精、体外受精、胚移植、顕微受精などが行われています。人工授精の最大の問題は、1回あたりの妊娠率が7~15%前後ときわめて低いことです。通常のセックスで子宮内に移行できる精子は1%以内と考えられています。人工受精は精子を子宮内腔へ注入するわけですから、もっと妊娠率が高くても良いはずですが、低いその原因は、人工授精の際に使われるhCGが卵子の質の低下を招くからだとの指摘がなされています。また、7回を過ぎると妊娠率はほとんど上がりません。

体外受精では、いかに良好な卵子(受精しやすい卵子)を多く得るかがポイントです。この場合、最も大きい要因は女性の年齢で、明らかに37歳以上は成績が落ち、40歳以上では8%前後の妊娠率しかありません。質の良い卵子を採るためにhCGの注射を加えると、副作用として「卵巣過剰刺激症候群」が高頻度に出現することです。卵巣を刺激するhCG、hMG製剤によって、かえって卵子の質を低下させるともいわれています。

体外受精を受けた患者を約10年間追跡調査した結果、5026名中27名にがんの発症があり、内、乳がん11例、子宮頸癌1例でした。さらに、体外受精1回あたりの妊娠率は22.1%、そして最終的に赤ちゃんを抱いて帰れるのは15.1%で、体外受精で妊娠に至っても流産する確率が高いことも事実です(約20%)。

不妊症に使う漢方薬には、当帰芍薬散、温経湯、当帰建中湯、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、通導散、芎帰(きゅうき)調血飲第一加減、芍薬甘草湯などが症状に応じて用いられます。
黄体機能不全に当帰芍薬散、高プロラクチン血症に芍薬甘草湯、排卵障害に当帰芍薬散、温経湯、桂枝茯苓丸などが使われています。

*「きゅう」という字は、“クサカンムリ”に弓と書きます。

参考図書:看護のための最新医学講座・婦人科疾患(中山書店)、妊娠力をつける(放生勲著・文春文庫)、不妊症これで安心(佐藤孝道著・小学館)

◎子宮内膜症・子宮筋腺症について

子宮内膜症とは、本来子宮の内側を覆っている子宮内膜あるいはそれとよく似た組織が、なぜか子宮以外の部位に発生してしまう病気です。発生する場所は、卵巣、卵管、腹膜、腸などさまざまですが、それぞれの場所で本来の子宮内膜と同じように増殖と出血を繰り返します。

この増殖と出血は通常の月経のサイクルに沿ったものですが、月経の場合は剥がれた子宮内膜は月経血とともに膣から出るのに対し、子宮内膜症の場合にはそのような出口がないことです。このため出血した血液がお腹の中に溜まったり、できた場所の臓器に溜まったりして、強い痛みなどのトラブルを引き起こすもととなります。

子宮内膜症は、ホルモンが卵巣で作られて月経がある女性だけに発生する病気で、閉経になってホルモンが減少してくると次第に軽症化することが知られています。その発生と進行には、卵巣ホルモン、特に卵胞ホルモン(エストロゲン)と月経があるということが大事な条件になると考えられます。

子宮内膜症は命にかかわる病気ではありませんが、強い月経痛があるために仕事を休まなければいけなくなったり、体調の悪い日が続いて気分が落ち込んだりして「生活の質(QOL)」が低下する場合が多く見られます。

子宮内膜症の患者の約30~60%が不妊を訴え、逆に不妊患者の40~50%に子宮内膜症が認められることから、両者の関わりは深いものがありますが、因果関係ははっきりと解明されてはいません。

子宮内膜症ができやすい場所は、卵巣、ダグラス窩、腹壁腹膜などです。中でも卵巣の内部に子宮内膜が増殖すると、出血した血液がチョコレート状になるため「チョコレート嚢胞」とよばれています。子宮の筋肉層に入り込んで子宮内膜組織が増殖するのを「子宮腺筋症」といいますが、最近では子宮内膜症とは別の病気として扱われています。

子宮内膜症という診断がついたときには、超音波断層写真などから内膜症ができた場所を確認しておくとよいでしょう。卵巣でしたらチョコレート囊腫、子宮内でしたら子宮腺筋症、子宮の後ろでしたらダグラス内膜症か深部(浸潤性)内膜症のことが多くなります。

子宮内膜症に対する治療は、①ホルモン療法(偽妊娠療法、タナゾール療法、Gn-RH作動療法)、②漢方療法、③手術療法などが行われています。

漢方薬は、当帰芍薬散、当帰建中湯、加味逍遙散、温経湯、桂枝茯苓丸、折衝飲、芍薬甘草湯、桃核承気湯、通導散、芎帰(きゅうき)調血飲第一加減などが症状に応じ用いられています。

「きゅう」という字は“くさかんむり”に弓と書きます。

参考図書:もっと知りたい子宮内膜症(杉本修著・知人社)、看護のための最新医学講座・婦人科疾患(中山書店)ほか

◎子宮筋腫について

子宮筋腫は、顕微鏡でわかる小さいものまでいれれば、35~50歳の女性の75%もがもつとされる、子宮にできるありふれた良性の腫瘍です。子宮は、赤ちゃんを育てる大切な臓器です。子宮筋腫は婦人科が扱う疾患の中で最も多い病気です。しかし、子宮筋腫は他の病気と違って、自分のライフスタイルや年齢によって治療方法が自分で選べる病気です。

子宮筋腫は良性の腫瘍ですから、自分の生活の質(QOL)を保ちながら、どのように病気と共存するかを、まず考えるべきです。子宮筋腫と診断されても、ほとんどの人は症状もなく、手術の必要がありません。しかし、貧血や圧迫症状あるいは腹部の突出のために、どうしても普段の生活を保てなくなって共存が不可能になることがあります。また、妊娠を具体的に計画している場合には、子宮筋腫の妊娠や分娩に及ぼす影響を考えて、手術を行う場合もあります。

子宮は内側から赤ちゃんのベッドの役割をしている子宮内膜、赤ちゃんを守る壁の子宮筋層、そして子宮を包む漿膜の3層からなっています。子宮筋層の中にできる良性の腫瘍が子宮筋腫です。子宮筋腫のできる仕組みはまだよくわかっていません。おそらく、何らかの原因で子宮の筋層の中にできた腫瘍細胞が、女性ホルモン、エストロゲンの影響を受けて次第に大きくなり、筋腫をつくるのではないかといわれています。 

子宮筋腫の治療
①手術
②経過観察
③薬物療法(GnRHアゴニスト、低用量ピル、鉄剤、鎮痛剤)

漢方薬は症状に応じ、温経湯、温清飲、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、香蘇散、大黄牡丹皮湯、桃核承気湯、当帰芍薬散などが用いられています。

参考図書:子宮筋腫これで安心(佐藤孝道著・小学館)、看護のための最新医学講座・婦人科疾患(中山書店)ほか

◎更年期障害について

更年期とは、卵巣の機能が衰えはじめ、女性ホルモンの分泌が急激に減少する「閉経を迎える前後の期間」のことを指します。女性ホルモンには卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)があります。エストロゲンは女性生殖器(子宮、卵巣、膣、乳房)を発育させ、子宮に受精卵が着床できる状態を作る働きや、骨形成を促進する働きをしています。プロゲステロンは子宮に作用し子宮筋の緊張を減らし、妊娠を維持する作用と同時に、基礎体温を上げたり、排卵を抑制する働きがあると考えられています。

エストロゲンの血中濃度は、25歳を100とすると、35歳で93、40歳前半で80ぐらい、55歳で60、65歳で52というように、ほとんどの人は閉経を迎えるころになると卵巣の機能が衰え、エストロゲンの分泌量が急激に低下します。卵巣の働きが低下してエストロゲンの分泌量が減ると、これを感知した脳(視床下部と下垂体)は、卵巣を刺激しようと卵胞刺激ホルモンを分泌しますが、卵巣はこれに反応できないため、結果的に卵胞刺激ホルモンの増加とエストロゲンの減少というホルモン分泌のバランスが乱れ、視床下部の調整機能が失われて、自律神経に影響を与え、さまざまな症状を起こすようになります。

更年期障害の症状
①血管運動神経系:ほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)、発汗・寝汗、冷え、動悸、息切れ、むくみ、頭痛
②運動器官系:腰痛、肩こり、関節痛、背部痛、筋肉痛、疲れやすい
③消化器系:食欲不振、吐き気、便秘、胃もたれ、胸やけ、下痢
④泌尿器系:頻尿、残尿感、排尿痛、血尿、尿失禁
⑤精神神経系:頭痛、めまい、不眠、不安感、イライラ、うつ、耳鳴り、立ちくらみ
⑥知覚系:しびれ、知覚麻痺、知覚過敏、蟻走感、視力低下
⑦生殖器系:月経異常、膣乾燥感、性交痛、性欲減退
注意してほしいことは、これらの症状が更年期障害によるものとは限らないことです。ほかの病気の可能性もありますので、専門医を受診されることをお勧めします。

更年期障害の治療は、①ホルモン療法、②自律神経調節薬、③漢方薬、④心理療法などが行われています。
漢方薬は、加味逍遙散、桂枝茯苓丸、桃核承気湯、温経湯、当帰芍薬散、五積散、芎帰(きゅうき)調血飲第一加減、通導散、半夏厚朴湯、苓桂朮甘湯などが症状に応じて用いられています。

*「きゅう」という字は、クサカンムリに弓と書きます。

更年期を幸年期に!

参考図書:看護のための最新医学講座・婦人科疾患(中山書店)他

◎ 男性の更年期障害

更年期障害は女性だけでなく、男性にも更年期があります。
①身体的症状(粘りがなくなる、体重が増える、物忘れが多くなる、髪が薄くなる、寝汗、手足の冷えやほてり感、骨粗鬆症、前立腺肥大など)
②精神的症状(疲労感、うつ、不安と恐れ、不眠、集中力の低下、孤独感など)
③性的兆候(性欲減退、勃起不全など)

参考図書:毎日ライフ:04年12月号・毎日新聞社