気になる病気のお話A

◆脳血管系の病気◆〜脳梗塞・脳出血、一過性脳虚血発作

脳の膨大な数の神経細胞に酸素と栄養を運んでいるのが、脳内を走る血管(脳動脈)です。この脳動脈が詰まったり、破れたりすると、その先の組織に血液が行かず、その結果、脳細胞が壊死し、脳の機能が低下したりさまざまな神経障害が起きてきます。こうした状態を「脳卒中」といいます。

医学的には「脳血管障害」といい、大きくは、脳の血管が破れ出血することで起こる「出血性」と、脳の血管が詰まり脳へ血液が行かなくなることで起こる「虚血性」の二つに分けることができます。

出血性には、「脳出血」「くも膜下出血」があり、虚血性には「脳梗塞」「一過性脳虚血発作(TIA)」などがあります。動脈の詰まり方には2種類あり、最も多いのは脳血栓で、動脈硬化のために血管の内腔にヘドロのようなものがこびりつき、時間とともに動脈が段々と狭くなり閉ざされてしまうもの、もう一つは脳塞栓で遠方から小さな血の塊が流れてきて動脈を閉塞してしまうものです。

@一過性脳虚血発作(TIA)

脳の血管は一発で詰まるものではなく、その前ぶれというべきものが二つあります。一過性脳虚血(TIA)と可逆性虚血性神経欠落発作(RIND)です。いずれも動脈が完全に詰まるのではなく、一時的に動脈を流れる血流が低下し、運動麻痺(片麻痺)・言語障害などの症状が出ますが、しばらくすると血流が回復して症状が消えます。症状が1日で消えるものをTIA、1週間で消えるのをRINDといます。これは脳梗塞の警告症状と考えられますので、十分な注意が必要です。実際TIAになった人の20〜30%は数年内に脳梗塞を起こすことがわかっています。

A脳梗塞

脳梗塞は起こる部位や起こり方により、大きく三つにわけられます。いずれも脳の血管が詰まり、血液が回らなくなり脳の細胞が死んでしまう状態になります。

a)ラクナ梗塞
脳に入った太い動脈は細い末梢の動脈へと枝分かれしていきます。この末梢の動脈に高血圧などで圧力が加わり続けると動脈硬化が起こります。そこに血栓が詰まって起こるのがラクナ梗塞です。梗塞巣が小さいため症状も軽く、無症状のこともあります。しかし、繰り返し発生すると脳血管性痴呆やパーキンソン病などが起こることがあります。日本人に多いタイプで、主に高血圧が原因となって発症します。

b)アテローム血栓性脳梗塞
血液中のコレステロ−ルなどが、血管壁に入り込むと「アテローム」と呼ばれるお粥のような塊ができ、それにより血管の内腔が狭くなります。この状態が動脈硬化です。脳に血液を送る頚動脈や脳内の太い血管に血栓ができて詰まるのが「アテローム血栓性脳梗塞」です。高血圧、糖尿病、高脂血症などが原因になります。血管が狭くなったときに、血液の粘度が上がると脳梗塞になりやすく、飲酒の翌日や炎天下のゴルフ中に脳梗塞になる人がいるのは、脱水症状により血液の粘度が高まったからと考えられます。

c)心原性脳塞栓症
心臓病があると、心臓の内側に血栓ができていることがあります。その血栓が血流によって脳まで運ばれ、脳の血管が突然に詰まってしまうのが「心原性脳塞栓症」です。不整脈の一つである「心房細動」をもった人に多く見られます。今まで流れていた血液が突然血栓により蓋をされることになるので、症状が急に現れ重篤になることが多く、脳梗塞の中で最も重症です。また、脳塞栓のあとに血栓が溶けて急に血液が流れ出すと、今度は血管が破れて出血することがあります。これを「出血性脳梗塞」といい、こちらが命取りになることもあります。

B脳出血

脳の内部で細かく枝分かれしている細い血管(細小動脈)の壁は、高血圧の状態が続くと次第に柔軟性が失われ、弾力を失い段々と脆くなってきます。脆くなった動脈は、部分的に膨れ上がり、やがて破裂して出血を起こします。破裂した動脈からは勢いよく血液が噴出し、周囲の脳細胞が破壊されます。ほとんどの脳出血は高血圧を基盤とし、このほか外傷や肝臓の病気などいろいろな原因でも起こります。

Cくも膜下出血

原因として最も多いのは、脳動脈の一部がコブのように膨らんだ「脳動脈瘤」の破裂です。脳動脈の枝分かれした部分の血管の壁は先天的に弱く、そこに血圧や血流による負荷が加わることで動脈瘤ができます。過労や運動などで血圧が上がったり、高血圧が長く続くとこの動脈瘤が破れ発症します。破裂すると、くも膜下にあふれた血液が血腫をつくり、脳を圧迫し死に至ることもあります。一度出血が止まっても1週間以内に再発することが多く、再発した場合はさらに重症になります。

脳卒中の危険因子は、@加齢、A高血圧、B糖尿病、C動脈硬化、D悪玉コレステロール、E不整脈、F多血症、G飲酒、H喫煙などです。

前ぶれ発作に注意を!!
運動麻痺:食事中に箸を落とす、手足に力が入らない(倒れるなど)
言語障害:ろれつが回らない(言葉が話せない)
感覚障害:片方の手や足のしびれ、片側の口のまわりのしびれ
視力障害:ものが二重に見える、視野の片側が見えにくい
突然現れ、数分から数十分で消えてしまうことがほとんどですから、これらの症状を見逃さないことが大切です!!

脳梗塞が起こっているのに症状がわからないのが「無症候性脳梗塞」で、主にラクナ梗塞に見られます。歳とともに高くなる血圧が最も大きな原因です。本人は何の自覚症状もないのですが、脳ドッグなどの画像で見つけることができます。日本人の老年痴呆(認知症)の約半数は、脳梗塞による脳細胞が機能を失う脳血管性認知症だといわれています。

脳血管障害に使う漢方薬としては、症状に応じ、三黄瀉心湯、黄連解毒湯、防風通聖散、柴胡加竜骨牡蛎湯、釣藤散、七物降下湯、苓桂朮甘湯、疎経活血湯、独活寄生湯、補中益気湯、続命湯、牛黄製剤などを組み合わせて用います。

参考図書:看護のための最新医学講座:脳・神経系疾患(中山書店)、そこが知りたい脳の病気(天野恵市著・新潮社)、脳の病気のすべてがわかる本(矢沢サイエンスオフイス編・Gakken)他