気になる病気のお話③

◆神経内科系の病気◆~認知症、パーキンソン病

神経内科は、脳・脊髄・末梢神経・筋肉の障害によって起こるさまざまな病気を専門として診療する科です。代表的な病気は、頭痛、脳卒中、認知症(痴呆)、てんかん、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、重症筋無力症、筋ジストロフィーなどです。

◎認知症(痴呆)とは?

「認知症」とは、脳の一部が壊れてしまったために、通常の範囲を超えて、記憶の作業ができない状態です。認知症を引き起こすもとに、アルツハイマー病と脳血管性認知症があります。アルツハイマー病は「脳の病」ですが、脳血管性認知症は「血管の病」です。

厚生労働省は「脳血管疾患、アルツハイマー病その他の要因に基づく脳の器質的な変化により日常生活に支障が生じる程度にまで記憶機能および認知機能が低下した状態」と定義しています。

医学的には“「知能」のほかに「記憶」「見当識」の障害や「人格障害」を伴った症候群”として定義されています。単に老化によって物覚えが悪くなるという現象や統合失調症などによる判断力の低下は含まれません。頭の外傷により知能が低下したものは含まれます。

アルツハイマー病の人では、脳の記憶に関する部分にアミロイドというタンパク質がたまっていたり、神経細胞が死んで縮み、神経伝達物質の量も減った結果、脳全体が萎縮してしまいます。

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血が原因で起こる認知症です。脳卒中にならなくても、小さな脳梗塞が積もり重なると認知症が生じてしまうこともあります。

アルツハイマー病は徐々に進行しますが、脳血管性認知症では小梗塞が生じたときなどに段階状に進行します。アルツハイマー病の脳には全般的萎縮が見られるのに対し、脳血管性認知症では脳の血管に梗塞や出血が生じ、その血管によって養われていた脳の部分だけが損傷を受けるので、損傷を受けた脳と受けていない脳とが併存します(マダラ脳)。

認知症の原因
①脳変性性
脳の実質の変性により神経細胞が脱落し、脳が萎縮することで生じます。アルツハイマー病、ピック病、びまん性レビー小体病、ハンチントン病、パーキンソン病など。
②脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血などにより脳の神経細胞に酸素や栄養が行き渡らず障害が生じます。多発性脳梗塞型、限局性脳梗塞型、遺伝性血管性型、出血性型など。
③感染性の病気によるもの
クロイツフェルト・ヤコブ病、HIV関連、進行麻痺、単純ヘルペス脳炎、脳梅毒など。
④代謝性・内分泌性の病気によるもの
肝性脳炎、低血糖性脳炎、甲状腺機能低下症、ダウン症など。
⑤外傷性の病気によるもの
外傷性脳挫傷、慢性硬膜下血腫、ボクサー脳症など。
⑥その他
脳腫瘍、正常圧水頭症、一酸化炭素中毒など。

アルツハイマー病にはドネペジル(商品名アリセプト)などの薬物療法が、脳血管性認知症の予防には血圧のコントロール、脳の動脈硬化の進行を遅らせることなどがなされています。
漢方薬は、黄連解毒湯や当帰芍薬散、加味温胆湯などが注目されていますが、全身症状を勘案して、加味帰脾湯、補中益気湯、六君子湯、釣藤散、抑肝散、桂枝茯苓丸、通導散、帰(きゅうき)調血飲第一加減などが症状に応じて用いられています。

*「きゅう」という字は、“クサカンムリ”に弓です。

参考図書:神経内科(小長谷正明著・岩波新書)、脳の老化と病気(小川紀雄著・講談社)、市っておきたい認知症の基本(川畑信也著・集英社出版)他

認知症とうつ病の区別

認知症 うつ病
発病様式 緩除または不明 急速に発症・悪化
初発症状 知的能力の低下 抑うつ症状
症状の訴えかた 軽くいったり否認 不自然なほど記憶力低下や知的能力の低下を強く訴える
病識 気づかない。悩む様子がない あり
失望感をともなう
知的能力 慢性的・持続的に低下
言語理論や会話が困難
日常生活で介助が必要
本人が訴えるほど知的能力の低下はない
言語理解はあり、会話が可能
独力で身辺処理が可能
不眠・食思不振などの自律神経症状 見られない 必発、特徴的
抗うつ薬治療に対する対応性 (-) (+)

◎パーキンソン病とは?

パーキンソン病とは、運動の指令を出す脳の一部の接触がうまくいかなくなり、スムーズな運動や姿勢が保てなくなる病気です。中脳にある黒質は大脳の深いところにある線条体という神経細胞に線維を出して線維連絡をしています。黒質神経細胞から線維を出して線条体の神経細胞と溝をはさんで連絡をしています。この二つの神経細胞の間の情報を伝えている物質がドーパミンです。パーキンソン病では線条体のドーパミンが減っているのです。

主要な症状としては、以下の4つがあります。
①安静時振戦・・・安静にしている時に見られるのが特徴。
②筋固縮・・・力を抜いた状態で関節を他動させた時に抵抗がある。
③無動・・・動作の開始が困難で、動作がゆっくりで小さい。
④姿勢反射障害・・・バランスが崩れた時によろめき反射が弱い。

日頃私たちは特別に意識することなくスムーズに動いています。このスムーズな動きをコントロールしているのが、脳の線条体です。そこではドーパミンとアセチルコリンが体の動きをコントロールしています。ドーパミンは脳と脊髄の間の脳幹部にある黒質から線条体に供給されています。パーキンソン病は、この黒質の細胞が変性し、脱落していくために線条体のドーパミンの量が低下することにより発症します。この黒質~線条体の働きを障害するような病気もあり、パーキンソン病と類似の症状が出現します。脳梗塞、脳炎、線条体黒質変性症、ある種の薬物の使用などで出現することがあり、パーキンソン症状を呈するものを「パーキンソン症候群」と呼んでいます。

パーキンソン病の治療は、薬による治療としてはLドーパ製剤、ドーパミン受容体刺激薬、抗コリン薬、ドーパミン放出促進薬、モノアミン酸化酵素阻害薬、ノルアドレナリン補充薬などが、外科的治療として手術がなされています。

漢方薬は、通導散、桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、抑肝散、半夏厚朴湯、補中益気湯、帰脾湯、芍薬甘草湯、疎経活血湯、香蘇散、加味帰脾湯、釣藤散、半夏白朮天麻湯、芎帰(きゅうき)調血飲第一加減などが症状に応じ組み合わせ用いられています。

*「きゅう」という字は、“クサカンムリ”に弓と書きます。

参考図書:神経内科(小長谷正明著・岩波新書)、脳の老化と病気(小川紀雄著・講談社)、パーキンソン病がわかる本(福永秀敏著・法研)他