気になる病気の話D-2

◆消化器系の病気A◆〜肝臓の病気

◎肝臓病について(B型肝炎・C型肝炎・NASH)

肝臓は肝細胞が集まってできた肝小葉の集合体で、中心静脈につながっています。そして肝静脈には肝動脈と門脈から血液が流入します。肝臓の必要な血液の80%が門脈から入っています。肝臓の主な働きは、@栄養素の代謝、A解毒作用と排泄作用、B胆汁の生成と胆汁色素の排泄などです。

肝臓病には自覚症状がほとんどありません。にもかかわらず、ある種の肝臓病は時間とともに肝臓を蝕んで、50〜60歳代で肝硬変へと進行していくのです。人間ドッグの結果でさしあたり重要なのは、ALT(GPT)とγGTPの二つといわれています。

@ALT(GPT)は正常、γGTPが異常
一番可能性が高いのはアルコール性肝炎です。お酒を飲まない場合は最近服用した薬の可能性が、酒も薬も飲んでいないなら脂肪肝または胆石などが考えられます。

AAKT(GPT)が異常で、γGTPが正常
この場合何より恐ろしいのはウイルス性肝炎です。HBs抗原、HCV抗体を調べましょう。

BALT(GPT)が異常で、γGTPが正常でウイルスがいない
薬を飲んでいるなら薬剤性肝炎の可能性が高く、薬を服用していなければ脂肪肝、自己免疫性肝炎の可能性もあります。

CALT(GPT)もγGTPも異常
まずアルコール性肝炎と考えられます。酒を飲まなければウイルス性肝炎、薬剤性肝炎、脂肪肝の可能性も考えられます。HBs抗原、HCV抗体が陰性なら薬剤性肝炎か脂肪肝かを確認しましょう。

肝臓の中には神経が通っていないので痛みなどの自覚症状が現れず、黙々と働き続けることから「沈黙の臓器」といわれています。しかも、肝臓は予備能力が高く、肝臓全体の約7分の1が残っていれば、通常の生活に必要な機能は果たすことができるといわれています。また、肝細胞は他の臓器と違い再生する能力にたけており、手術で肝臓の70%を切り取っても約4ヵ月後には元通りの大きさになるといわれます。非常にタフな臓器だけに、なんらかの症状が現れたときには、かなり病状が進んでいることになります。

今までになく疲れやすい、脂っこいものが食べられない、お酒に酔いやすくなった、二日酔いが長引く、皮膚や眼球粘膜が黄色い・・・といった症状が見られたら、一度肝機能検査を受けましょう!!肝機能が低下すると女性ホルモンが代謝できず男性の乳房が女性のように膨らんだり、胸や腕の毛細血管がクモの巣のような形に浮き出たり(クモ状血腫)、掌が赤くなったり、腹水や手足のむくみ(アルブミン不足)などが見られるようになります。

肝炎とは肝臓に炎症が起き、肝臓が破壊されていく病気です。「アルコール性肝炎」とは長年の多量の飲酒によるもの、「薬剤性肝炎」とは服用した薬が原因で起こすもの(中毒性肝障害・薬剤性肝炎)、「自己免疫性肝炎」とは自分の体の成分に対して攻撃をしかける自己免疫疾患です。ウイルスが原因となって炎症が起きるのが「ウイルス性肝炎」です。ウイルス性肝炎にはウイルスのタイプによりA型、B型、C型、D型、E型、G型などがありますが、怖いのはB型とC型です。

A)B型肝炎とは?
このウイルスは基本的には血液感染(輸血、誤刺事故など)によって広がります。現在日本で見られるB型肝炎の多くは注射器などの医療用具の使い回しや誤刺、汚染された血液の輸血、血液製剤の使用によって感染したものです。B型肝炎ウイルスは体液(唾液、清液)からも感染します。さらに妊婦が感染している場合は、分娩時(産道を通るとき)に母子感染(垂直感染)が起こります。B型肝炎ウイルス感染は、一過性のものと持続性のものとがあり、急性で治ってしまうものと慢性化するものとがあるのです。妊娠時健診、輸血に使われる血液のチェックなどによりB型肝炎は確実に減少しています。

B型急性肝炎は、感染後1〜6ヶ月の潜伏期間を経て発症します。通常、潜伏期間の後、発熱、食欲不振や倦怠感に続いて黄疸のような症状が連続的に現れます。しかし、免疫系が完成している成人が水平感染すると、このウイルスに対する抗体がつくられるためウイルスが駆逐され自然治癒します(80%の人が)。20%の人が急性肝炎になりますが、治まると生涯B型肝炎にかかることはありません(永久免疫)。

肝臓の機能の異常が6ヶ月以上続く場合を「B型慢性肝炎」といいます。これは、肝硬変、肝がんへと進展する危険性があります。B型慢性肝炎は基本的に、新生時期または乳幼児期に母親から感染しウイルスキャリアとなった人が、後になって(思春期ごろ)発症するもので、成人が感染(水平感染)した場合になることはほとんどありません。

B型肝炎のウイルスマーカーとして、HBs抗原、HBe抗原、HBc抗体などを調べます。HBs抗原が陽性なら現在B型肝炎に感染中であると診断され、さらにHBc抗体が高値ならキャリア、低値なら過去に感染したか、急性肝炎と診断されます。HBe抗原が陽性ならウイルスの増殖が旺盛で人にうつす可能性が高いといえます。

ウイルスが活発に増殖をしていることを示すHBe抗原が陰性になり同時にHBe抗体が陽性になることを「HBe系のセロコンバージョン」といい、B型肝炎治療では一般にセロコンバージョンが起これば「治った」と見なされ治療目標になります(無症候性キャリア)。しかし、近年の研究では、肝炎が治まっても体内からウイルスが完全に消滅したわけではなく、肝がんの発生率も年0.4%と報告されています。また、HBe抗原を産生しない異常株の存在が知られており、この場合はセロコンバージョンを起こしてもウイルスが増殖し肝炎が持続します
B型肝炎は同じウイルスでありながら、何歳で感染したかによってたどる経過がまったく違ってきます。また、劇症肝炎を起こす可能性があること、慢性肝炎⇒肝硬変⇒肝がんという段階を経ることなく、突然肝がんを発症する可能性もあるので注意が必要です。

B型肝炎は母子感染に比べ父子感染はあまり知られていませんが、大阪大学の調査で祖父母や父親、兄弟を介した食べ物の口移しなどで、知らぬ間に感染しているケースが判明しました(H.22/5/29朝日新聞記事)。

B)C型肝炎とは?
C型肝炎ウイルスは体液・血液を介して感染します。母子感染(垂直感染)とその他の感染(水平感染)がありますが、B型肝炎に比べて母子感染はかなり低く、ほとんどが大人になってからの水平感染と考えられます。水平感染の感染源としては、過去に輸血や同じ注射針による予防注射などが存在したと推測されますが、現在では同じ注射器による薬物の回し打ち、ピアス、刺青、鍼などで十分に清潔が保たれない場合、またウイルスを持った人との性行為などが考えられます。

C型肝炎ウイルスに感染すると、4〜6週間の潜伏期間をおいて発症すると見られています。C型急性肝炎で自覚症状が現れるのは30%以下で、症状がある場合でもきわめて軽く、体のだるさや食欲不振だけです。成人のC型急性肝炎で自然治癒するのは約30%で、残りは慢性化しウイルスを排除しきれず、肝臓にウイルスが住み着きキャリアとなります。さらにC型慢性肝炎の30〜40%が肝硬変に進行し、その60〜80%に肝がんの発生が見られます。

C型肝炎ウイルスは変異するタイプのウイルスです。またC型肝炎ウイルスと人間の遺伝子は一部の構造が似ており、そのため免疫は自己との区別がつかず、攻撃の対象から外すとか、免疫反応を妨害するともいわれていますので、B型肝炎ウイルスに見られるセロコンバージョンのような現象も起こりません。

通常、血液の中に肝炎ウイルスが入ると抗原抗体反応が起こって、外から侵入した異物(抗原=ウイルス)が排除され、異物を排除するためにつくられた抗体が残ります。B型肝炎ウイルスの場合、HBe抗体陽性というのが、この状態を指します。ところが、C型肝炎ウイルスの場合、抗体の陽性反応が出た中に、ウイルスが排除された人と、ウイルスを持っている人のどちらも含まれています。C型肝炎ウイルスの場合、ウイルスの量を調べる検査をして再び振いわけをする必要があります。陽性反応の出た人の8割は慢性肝炎に移行します。

C型肝炎ウイルスの量が少ないためB型肝炎に比べて感染力が弱く、急性肝炎になっても症状が比較的軽いという特色があるため、慢性化してから見つかるケースが多いようです。C型肝炎が思春期のころ悪化するのと違い、ほとんど50〜60歳の免疫力が落ちてくるころに悪化します。

C型肝炎では鉄過剰をきたしやすく、鉄依存性フリーラジカルが病態を悪化させることが明らかになりました。肝臓内の鉄分が細胞を傷つける活性酸素を発生させて肝細胞を痛めるからです。肝臓に鉄がたまると酸化ストレスが生じて、肝臓の線維化を進めてしまうのです。鉄分の多い食品や健康食品には注意してください。一日あたり7mg以下にしましょう。また、ビタミンCは鉄吸収を促進させるので、摂りすぎは逆効果になります。

C型肝硬変から肝がんへの進行を阻止するには・・・
年平均のALT(GPT)値が80単位以下では、がんの発生率が低いことがわかってきました(神奈川県立がんセンター・多羅尾和郎院長)。C型肝硬変患者では毎年3万人が肝がんになっているそうです。肝がんへの進行を阻止するには、肝硬変の初期からALT(GPT)値を年平均80単位以下にしっかり抑えることが重要です。

C)NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)とは?
お酒をあまり飲まないのにアルコール性肝炎と同じように、炎症を起こした状態になる病気です。NASHを放置すると肝臓の線維化が進み、10年後には1〜2割の人が肝硬変になるといわれています。NASHの特徴は、脂肪が肝細胞の中に過剰にたまる「脂肪肝」がもとになって起こることです。特に30歳代以降の男性に多く、女性の場合は閉経を迎える年代になると急増します。

NASHの発症には、内臓周囲の「腸間膜」の辺りに蓄積した内臓脂肪によって起こる「インスリン抵抗性」が関わっていると考えられています。また脂肪酸の燃焼で発生する「活性酸素」や、炎症を増幅させる「サイトカイン」などによる刺激も関係していると考えられています。

日経メディカル2011年5月号に「メタボ由来の肝炎に注意」〜脂肪肝から発症し肝硬変・肝癌に至る〜という記事の中で、『非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)由来と考えられる肝癌死が増えている。NASHは生活習慣病を基盤に発症し、これといった症状もなく進行する。血小板減少や線維化マーカーの上昇が早期発見のカギだ。高血圧患者がNASHを合併しやすいこと、慢性腎臓病(CKD)患者でもNASHの合併頻度が高いことが報告されている。また、非アルコール性脂肪性肝炎(NAFLD)は、炎症や線維化を伴わない単純性脂肪肝と、炎症や繊維化を伴うNASHに大別され、単純性脂肪肝からNASHへの進行も確認されていて、NASHは10年で20〜30%が肝硬変、肝癌に進展し、進行したNASHは予後が不良』と書かれています。

線維化・肝硬変・門脈亢進・静脈瘤・腹水について・・・
肝臓には破壊された肝細胞を再生し修復する能力がありますが、破壊のスピードが上回ると本来の材料ではきちんとつくるのでは間に合わないために、無理やり手近かな線維組織を材料に破壊された肝細胞の隙間を埋めていきます。これが「肝臓の線維化」です。線維化は血小板数で推測できます(軽度15〜18万、中等度13〜15万、重度10〜13万、肝硬変10万以下)。線維化が進み肝機能が低下すると「ヒアルロン酸」を分解しきれず血液中に流れでてくるので指標になります。

繊維化が進み、肝細胞を取り囲む繊維組織が増えてくると、再生結節といういびつな固まりができ、肝臓が硬く小さくなります。これが「肝硬変」です。

肝硬変になると代謝、解毒、排泄が思うように進まなくなることで、全身にいろいろな障害が起きてきます。硬くていびつになった肝臓では血液の流れが悪く、特に門脈に血液が滞りがちになり、その部分の圧力が高くなってきます。これが「門脈亢進」という状態です。

通りにくくなった血液は肝臓を避けて別のバイパスを通って心臓に戻ろうとします。バイパスの食道や胃の部分の静脈がコブのように膨らんでくるのが「静脈瘤」です。

肝臓に障害が起きてアルブミンの生産量が減ってくると、血管やリンパ管から液体成分が漏れ出し、腹腔内に溜まります。これが「腹水」です。

血液検査で何をみるのか?・・・
@肝臓の障害の程度・・・AST(GOT)、ALT(GPT)
A肝臓の働きを見る・・・アルブミン、ビリルビン、プロトロンビン時間、トロンボテスト、アンモニア、総コレステロール
B胆汁の流れぐあい・・・ALP、γGTP、ビリルビン、総コレステロール
C肝炎の慢性化度・・・γグロブリン、ZTT、ICGテスト
D病気の原因・・・ウイルスマーカー
E肝硬変の兆候・・・血小板、ヒアルロン酸

一般的には、
AST(GOT)>ALT(GPT):慢性肝炎、アルコール性肝炎、肝硬変、肝細胞がん、急性肝炎初期
AST(GOT)<ALT(GPT):ウイルス性慢性肝炎(特に活動性)、急性肝炎回復期、過栄養性脂肪肝

慢性肝炎の治療法には・・・
B型慢性肝炎にはインターフェロン療法、ラミブジン(抗ウイルス薬)、C型慢性肝炎にはインターフェロン療法やペグインターフェロンとリバビリン(抗ウイルス薬)との併用療法などがなされています。インターフェロンでウイルスが駆除できない場合や副作用で中止せざるをえない場合には強力ミノファーゲンCやウルソデオキシコール酸などが使われています。

肝炎に使う漢方薬には、小柴胡湯、茵陳(いんちん)蒿湯、茵陳(いんちん)五苓散、竜胆潟肝湯、補中益気湯、分消湯、柴苓湯などを症状に応じ組み合わせて用います。

*「ちん」という字は、“くさかんむり”に陳と書きます。

参考図書:C型肝炎を治す(熊田博光著・法研)、肝臓病の常識を疑え!(高山忠利著・講談社)、肝臓病(与芝真監修・法研)、病気が見える・消化管/肝・胆(医療情報科学研究所編・MEDECMEDEIA)