気になる病気の話⑤-1

◆消化器系の病気◆~腸の病気・痔

私たちが口にした食べ物は、口の中で噛み砕かれ、食道から胃へ送られ、吸収されるくらいの大きさに分解されます。胃の蠕動運動によりドロドロ状態で十二指腸へと送り出され、分解された栄養素は小腸の粘膜から吸収されます。吸収された栄養素は血液やリンパ液と一緒に肝臓へ送られ、小腸で吸収されなかったものは大腸へ送られます。大腸は残りカスの処理と排泄です。水分を吸収し適度な固さの便をつくります。便が直腸まで下りてくると便意を催します。

消化器の代表的な病気は食道炎・食道潰瘍、食道静脈瘤、急性・慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、がん(食道・胃・大腸・直腸)などがあります。

◎腸の病気(過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病)

ストレス社会の中で腸のトラブルが増えているといわれています。食生活の欧米化による大腸がんの増加のほかに、過敏性腸症候群や潰瘍性大腸炎、クローン病などにかかる人も増えています。しかも、それらが若い人に増えています。

A)過敏性腸症候群(IBS)とは?
過敏性腸症候群は、主として大腸の運動および分泌機能の異常で起こる病気の総称です。検査をしても炎症や潰瘍などの異常が認められないにもかかわらず、下痢や便秘、ガス過多による下腹部の脹りなどの症状が起こるものです。

腸の機能を調整している自律神経に異常があったり、精神的な不安や過度の緊張、興奮、悲しみや怒りなどの感情の起伏や、仕事や対人関係の悩みなどがストレスとなり、それらが引き金となって症状が現れたり、もともと神経質な性格や自律神経が不安定な人が暴飲暴食やアルコールの多量摂取、過労や体の冷えなどが起こると発症することもあります。

脳は消化管を強くコントロールしています。ストレス、不安、抑うつ、恐怖、そして強い感情は腸の機能に変化を起こし、過敏性腸症候群の症状を悪化させます。過敏性腸症候群は女性の方が男性の3倍多く起こり、特に便秘に悩む20代女性では約40%近くに上るといわれています。

過敏性腸症候群は子どもにも珍しくありません。小学校高学年では2~3%、中学生で6%、高校生で14%くらいで発症します。学校生活との関連が深刻な問題となります。学校での排便を避ける背景と同時に、過敏性腸症候群の生徒の25%は不登校問題を抱えているといわれています。

この病気は精神的なストレスや食事などの生活の乱れにより引き起こされることが多いので、症状を改善するにはこれらの要因を解消することが基本となります。高カロリー食と高脂肪食が原因となっている場合があります。食事は標準的なものが最善で、1回の量を少なめにし食事の回数を多くするほうが良いようです。腹部膨満や鼓腸のある人は消化しにくい食品は避けましょう。食物繊維の摂取量を増やすと症状が悪化する場合もあります。

漢方薬は、分心気飲、桂枝加芍薬湯、半夏瀉心湯、大建中湯、柴胡桂枝湯、人参湯などが症状に応じ用いられます。

B)潰瘍性大腸炎(UC)とは?

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜にびらんや潰瘍ができる原因不明の炎症性疾患です。特徴的な症状としては、下血を伴うまたは伴わない下痢と腹痛です。病変は直腸から連続的に、そして上行性に広がる性質があり、最大で直腸から結腸全体に広がります。

若年成人に好発し、発症年齢のピークは男性で20~24歳、女性では25~29歳に見られ、罹患率は増加傾向にあります。男女比は1:1で性別に差はなく、最近では高齢発症も珍しくありません。

原因は完全には解明されていません。腸内細菌の関与や自己免疫反応の異常、あるいは食生活の変化などが考えられていますが、まだ原因は不明で特定疾患に指定されています。

最初の症状は便が段々緩くなり、やがて便は出血を伴い痙攣性の腹痛と頻回の排便を催します。症状が重くなると発熱、体重減少、貧血などの全身症状が起こります。合併症として、腸管閉塞や腸管穿孔などや、大腸がんの合併頻度が高いといわれています。皮膚、目、関節の痛み、子どもでは成長障害が起こることがあります。

多くは内科的治療(薬物療法)により炎症は治まり症状も消失します(緩解)が、再び症状が発現(再燃)し再燃と緩解とを繰り返します。重症の場合や薬物療法が効かない場合に外科的治療(手術)が必要となります。

漢方薬は症状により、十全大補湯、小建中湯、人参湯、当帰芍薬散、真武湯、柴胡桂枝湯、柴苓湯、温清飲、香砂六君子湯、桂枝加芍薬湯などが用いられます。

C)クローン病(CD)とは?
クローン病は、主として口腔から肛門までの消化管の全域に、非連続性の炎症および潰瘍を起こす原因不明の疾患です。小腸の末端部が好発部位で、病変により腹痛や下痢、血便、体重減少などが生じます。

最近の研究では、遺伝的な素因を背景にもち、免疫系の異常(主としてマクロファージがTNFαを分泌し腸壁の正常細胞を傷害)が起こり、その上で食事の成分など環境的因子などが関係しているのではないかと考えられています。若年層での発症が顕著で、発症年齢は男性で20~24歳、女性で15~19歳が最も多く、男女比は約2:1で男性に多く見られます。

症状は個人差が大きく非常に多彩で、侵された部位によっても異なります。その中でも特徴的な症状は、腹痛と下痢で半数以上に見られます。さらに発熱、下血、体重減少、全身倦怠感、貧血などがしばしば現れます。

治療は原因が不明であるため根本的な治療法がありません。主に腸管の炎症を抑えることで症状を緩和し、栄養状態を改善します。栄養療法や薬物療法といった内科的治療が主体で、外科的治療は内科的治療の望めない場合に限り行われます(腸閉塞、穿孔、大量出血など)。
食事は一般的には、低脂肪・低残渣の食事が奨められていますが、病気の活動性や症状が落ち着いていれば通常の食事が可能です。

漢方薬は柴胡剤が第一選択剤になり、症状により桂枝加芍薬湯、大黄牡丹皮湯などが用いられます。

参考図書:潰瘍性大腸炎とクローン病(多田正大著・日本メディカルセンター)、メルクマニュアル家庭版(日経BP)、難病の最新情報(大野良之他編・南山堂)他

◎痔のお話

ロート製薬が平成16年にインターネットで全国の20~40代の女性10,348人を対象に「身体の悩みアンケート」をしたところ、34.5%が「痔を経験したことがある」と答え、女性の3人に1人が痔で悩んでいることがわかりました。また、出産との関連では1年以内に出産した女性の54.8%が「痔の経験がある」と答えたのに対し、出産経験のない女性は27.8%で、痔と出産との関連がうかがえます。

痔は肛門に発生する病気です。肛門のもつ排便機構がいろいろな条件で変化し、それが肛門に影響して病気が発生すると考えられます。便が硬くて出にくいなど排泄障害があると、「いきむ」ためにうっ血して、肛門の静脈叢が腫れ、「痔核(いぼ痔)」ができます。それがまた刺激となり残便感があるようになると、更にいきんで「脱肛」になります。また、硬い便は肛門を傷つけ、「きれ痔(裂肛)」となります。下痢が頻繁に起こると肛門が汚れて内痔核が感染し、腫れて痛くなることがあります。「肛門周囲膿瘍」になり、さらに「痔瘻」を起すことがあります。下痢も便秘と同じように痔には大敵です。

直腸の粘膜の末端は、歯状線という波をうった凸凹の境界線で肛門上皮とつながっています。この歯状線から約2センチほど内側は肛門管で、その粘膜の外側に肛門括約筋と肛門挙筋があります。この粘膜の下に静脈叢という血管の網があります。痔核の原因は、この静脈叢が腫れて静脈瘤となり、この静脈瘤が排便で粘膜と一緒に外に押し出されます。これを「痔核(いぼ痔)」といいます。

動脈血はその末梢の部分の静脈叢、次いで静脈血となり心臓へと戻ります。静脈には弁があって、淀んでうっ血しないように流れを調節しています。しかし肛門の部分の血液は「門脈」という血管を通って肝臓へ戻るようになっています。この門脈には逆流防止の弁がないので「うっ血」しても、心臓からは血液が送り込まれてくるので静脈叢が腫れてしまうのです。
肛門部のうっ血は、排便の際に「いきむ」ために起こるのが普通ですが、肝臓が障害を起すと門脈が圧迫されて血液が肝臓に戻りにくくなって門脈にプールされ、その結果静脈叢が腫れて出血します。
腹圧をかけて排便すると、門脈の流れが障害をうけ、肛門部にうっ血を起します。この腹圧の典型的なのが妊娠です。気管支炎でよく咳をする人、ラッパを吹いたり、大声でがなるのも、運動でお尻に力が入るのも痔にはよくありません。

痔の治療の基本は、肛門の負担を軽くすることです。まず、便秘、下痢を治すこと、お尻の血行を良くすることです。運転やデスクワークなどの長時間座りっぱなしの姿勢は肛門のうっ血を生じさせます。激しい力仕事やお尻に負担をかける運動、妊娠出産、アルコールや香辛料の取りすぎなどは肛門部に負担をかけます。

痔に使う漢方薬としては乙字湯が有名です。症状に応じて桂枝茯苓丸、当帰芍薬散、槐角丸、芎帰(きゅうき)膠艾湯、麻杏甘石湯、補中益気湯、紫雲膏などを組み合わせて用います。

*「きゅう」という字は、“クサカンムリ”に弓と書きます。

痔の予防には・・・
①バランスのとれた食事で便秘や下痢をしないようにする。
②トイレを我慢せず、長時間いきまない。
③お尻を清潔にする。
④下半身を温めて、冷えや血行不良を防ぐ

参考図書:毎日ライフ・2005年2月号(毎日新聞社)他