気になる病気の話⑥

◆循環器系の病気◆~高血圧、低血圧、不整脈

体のすみずみまで血液を十分に供給することは生命の維持にとって不可欠なことです。この血液を供給する循環の元になるのが心臓から駆出される力「心拍出」ということになります。心臓から送り出された血液は大動脈を経由して全身に分配されます。血液を運ぶ血管は、心臓から出たところが一番太い大動脈で、動脈、毛細血管と次第に細くなります。

循環器の代表的な病気には狭心症、心筋梗塞、不整脈、心筋症、心不全、高血圧、動脈硬化大動脈瘤、下肢静脈瘤などがあります。

血圧値は、心臓から血管へ送り出される血液量(心拍出量)と末梢血管の抵抗(動脈の収縮が主体)の積(血圧値=心拍出量×末梢血管抵抗)として計算されます。心拍出量が増加すると血圧は上昇する傾向に、末梢血管抵抗が増加しても血圧は上昇する方向に作用します。心拍出量が増加しても末梢血管抵抗が増加しない場合は、どちらの影響が大きいかにより血圧の変化は異なります。心拍出量は心筋の収縮性と血液量、心拍数などによって、末梢血管抵抗は血管の構造変化、動脈硬化などによって変動します。

血圧はさまざまな要因、たとえば運動、食事、興奮・安静、緊張・リラックス、喫煙、アルコール摂取、寒冷・温暖などで変化します。健康な人では、これらのさまざまな要因に対して適切な血圧になるように生体内でコントロールされています(血圧調節機構:①圧受容体系・・・自律神経と血圧、②中枢虚血反応性・・・脳への血流減少、③化学受容体系・・・血液中の炭酸ガス、④内分泌系・・・ホルモンと血圧、⑤腎臓ー体液系・・・腎臓と血圧)。

血圧を調節し維持する目的は、血液を全身に循環させることによって、臓器・組織・細胞への酸素・栄養素などを送り届けること(供給)と、二酸化炭素や代謝老廃物を運搬除去することにあります。生命維持に必要な主要臓器(脳・心臓・腎臓など)への血流が減少した場合、血流維持のための血圧上昇機構が作動します。

正常時の血圧は一般的に120~130/70~80mmHg 程度に維持されています。心臓の収縮により血圧の原動力が得られますが、心臓が収縮したときの圧力を収縮期血圧(最高血圧)、心臓が拡張したときの圧力を拡張期血圧(最低血圧)といいます。最高血圧と最低血圧の差を「脈圧」といい、一般的には40~50mmHg程度に保たれています。最近「平均血圧」と「脈圧」が新たなキーワードとしてクローズアップされています。「平均血圧」は細い血管の、「脈圧」は太い血管の動脈硬化を示すものです。

◎高血圧症とは

読んで字のごとく、血圧が高くなる病気のことで、生活習慣病の中で最大疾患群です。血圧は心臓から送り出される血液の量(心拍出量)と、それを流す血管の血液の通りづらさ(末梢血管抵抗)とで決まります。血液が大量に心臓から送り出される場合や、血管が狭くなって血液が通りづらくなったような状態では、血圧が上がることになります。心臓から送り出された血液が動脈内をめぐり、毛細血管を経由して再び心臓に還ってくるためには、ある程度の血圧と血管の柔軟性が必要なのです。

高血圧になっても自覚症状が現れないことが多く、silent killer(静かなる殺人者)と欧米では呼ばれているくらいです。そういった中でも体は危険信号を発しています。①脳障害からくる頭重感・頭痛・めまい・耳鳴り・のぼせ・吐き気・嘔吐、②心臓障害からくる動悸・息切れ・脈の乱れ、③高血圧が高度になると手足の脱力感・しびれ・舌のもつれ・意識喪失・言語障害・呼吸困難・手足のむくみなどが見られます。

高血圧は大別して、本態性高血圧(原発性高血圧、体質性高血圧)と二次性高血圧に分けられます。本態性高血圧は原因が特定できない高血圧で、全体の約90%を占めています。一方、二次性高血圧は原因が明らかであり。その原因としては腎臓、内分泌、心血管、神経の病気、妊娠中毒などがあります。

高血圧症は長い期間をかけてゆっくり進行しさまざまな障害を生みます。高血圧が長期間続くと動脈が硬く脆くなり(動脈硬化)、また血管の壁が厚くなり、血液が流れる血管腔は狭くなります。その結果、脳では脳血管の破裂(脳出血)や狭窄・閉塞(脳梗塞)を生じます。心臓では冠動脈の動脈硬化によって心筋梗塞や狭心症が生じます。腎臓では腎梗塞を生じることもあります。高血圧になると、血圧値の高い低いにかかわらず循環器系合併症の発生頻度が増加します。

血圧の基準となるのは「基礎血圧」といわれる安静時の血圧です。血圧を比較する場合は、この基礎血圧と比較検討します。普通の人でも運動の直後では血圧は当然変化しています。精神的な影響も大きく、ストレスが強いと簡単に血圧は上昇します(白衣高血圧など)。
30歳以上の3人に1人、70歳代の3人に2人が高血圧といわれています。高血圧を放置していると、突然、脳卒中や心筋梗塞などの危険な合併症を引き起こし、危険な状態を発生させるのです。

高血圧の治療は薬物療法(アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β受容体遮断薬、αβ受容体遮断薬、カルシウム拮抗薬など)と非薬物療法(肥満の解消、糖尿病の改善、高脂血症の改善、食事療法など)があります。

高血圧に使う漢方薬には、黄連解毒湯、三黄瀉心湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、釣藤散、七物降下湯、真武湯、八味地黄丸、加味逍遙散、女神散、半夏厚朴湯などを症状に応じ組み合わせて用います。

◎低血圧症とは?

低血圧であっても身体の各部に血流が必要量確保されていればいいのですが、何らかの原因により急激に血圧が低下し、臓器に必要な血流量が得られないときには、低血圧発作いわゆる「ショック」という病態になります。

低血圧とは一般的には収縮期血圧(最高血圧)が100~110mmHg以下、拡張期血圧(最小血圧)が70~60mmHg以下の場合ですが、慢性的に認められる常時低血圧症の場合には特別の障害はありません。低血圧症の人は朝の寝覚め、寝起きが悪くて、めまいや気分の不良を訴えることが多いようです。体質的な要素があり、やや自律神経失調的な訴えが多く見られます。

普通一般に、低血圧というと安静時血圧が低い場合や、臥位から立ちあがったとき血圧の下がる起立性低血圧を指すなどまちまちですが、低血圧と起立性低血圧とは別物なのです。
起立性低血圧症」は臥位から立位になったとき収縮期血圧(最高血圧)が30mmHg以上低下あるいは拡張期血圧(最小血圧)が15mmHg以上低下する場合をいいます。起立性低血圧は、横になっていて体を起したり立ち上がったときに、血圧が下がる状態のことですから、低血圧の人だけでなく、高血圧の人にも起こりうることなのです。

低血圧症の症状としては、めまい・ふらつき・立ちくらみ、頭痛・頭重感、手足がいつも冷たい、足がむくむ、動悸がひどい、吐き気がする、胃がもたれる・食欲がない、便秘、性欲減退、肌が荒れる、朝が起きにくい・・・などが現れます。
加齢により自律神経の働きが落ちてきたり、脳幹部へ血液を運ぶ脳動脈の血流が悪くなると低血圧症状が出やすくなります。

低血圧症への漢方薬は、苓桂朮甘湯、補中益気湯、芎帰(きゅうき)調血飲第一加減、真武湯、当帰芍薬散、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、半夏白朮天麻湯などが症状に応じ組み合わせて用いられます。

*「きゅう」という字は、“クサカンムリ”に弓と書きます。

参考図書:高血圧の医学(塩之入洋著・中公新書)、低血圧とのつきあい方(寺本純著・講談社)、よくわかる病気のしくみ(北岡建樹著・南山堂)他

◎不整脈とは?

毎日、夜も昼も休むことなく心臓は鼓動を打ち続けています。心臓の鼓動は1分間に大体60~80回程度になります。安静時には、この心臓の鼓動は比較的ゆっくりとしたリズムですが、運動時には体が酸素や栄養素をたくさん必要とするために早いリズムになるのです。このような場合でも心臓の鼓動は規則正しくて、脈が速くても(頻脈)乱れはありません。

心臓から血液が送られるためにはポンプ作用として心臓の収縮と拡張が規則的に行われる必要があります。心臓の収縮を行うために、心臓には刺激を自動的に生じる心房の刺激発生装置から始まり、この刺激を心筋に伝える刺激伝導系があります。最初の刺激は右心房の中にある洞結節で生じ、ペースメーカーとして一定のリズムが発生し、この電気的刺激は左右の心房から左右の心室の筋肉に伝わり、収縮が行われることになります。

不整脈とは、心臓が一定に打つリズム(成人では60~100回/分)が、なんらかの原因でこのリズムが乱れた状態をいます(速い・・・頻脈、遅い・・・徐脈、一定ではない)。不整脈を治療する目的は、突然死するような危険な不整脈が起こらないようにすること、心臓のポンプ機能が下がらないようにすることです。

①期外収縮・・・脈が途切れたり、リズムが速くなったりするもの。
②心房細動・・・心房の筋肉が細かく不規則に震えている状態。
③心室細動・・・心室が震え一定の収縮ができず、ポンプとして機能しない。
④洞不全症候群・・・洞結節がうまく働かず、ゆっくりなったり時に休止する。
⑤房室ブロック・・・心房から心室への電気刺激がうまく伝わらないもの。

不整脈には苓桂朮甘湯に牡蛎末を加えて、虚血性心疾患には冠心Ⅱ号方(ウチダ生薬製剤Ⅱ号方)、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などが用いられています。

参考図書:9割がよくある病気(山田恵子著・講談社)他