気になる病気の話F

◆腎・泌尿器の病気◆〜慢性腎臓病(CKD)、前立腺肥大症

私たちの体は尿を出すことによって、有害な物質や老廃物を排出したり、体液の成分のバランスを保っています。その尿をつくって排出する器官をまとめて泌尿器といい、腎臓、尿管、膀胱、尿道からなっています。

腎臓には心臓と血液のやりとりをする腎動脈と腎静脈がつながっています。腎動脈は腎臓の中で枝分かれしながら、毛細血管となり、毛細血管が毛玉のようにからまったものを「糸球体」といいます。糸球体では1日約150リットルもの原尿(尿のもと)がつくられています。しかし、実際に排出されるのは、わずか1%ほどで、残りの原尿は糸球体から続く尿細管で再吸収されます。

尿細管では、水や塩分、ブドウ糖など、体に必要な物質を吸収してリサイクルにまわします。残りの尿は尿細管を出ると集合管に流れ、さらに水分を再吸収して尿を濃くします。集合管を出た尿は腎盂に集められ、尿管を通って膀胱へ運ばれます。

腎臓は24時間休むことなく尿をつくり続けますが、そのほかにも、血圧を調整するホルモンや赤血球を増やすホルモンを分泌したり、体液の成分を調節する働きなどもしています。

腎・泌尿器系の代表的な病気には急性・慢性腎炎(急性・慢性糸球体腎炎)、腎盂腎炎、IgA腎症、急性・慢性腎不全、膀胱炎、結石、ネフローゼ症候群、尿毒症、前立腺肥大、前立腺炎、がん(膀胱・前立腺など)があります。

@急性腎炎
主に糸球体に急性の炎症が起こる病気です。発病する前に必ず喉の痛み、咳、痰、発熱といった風邪症状が見られます。2〜3週間すると尿量が減り、たんぱく尿と血尿が見られます。
A慢性腎炎
急性腎炎の症状が1年以上続いた場合をいいます。主な症状は血尿、たんぱく尿、むくみ、高血圧などですが、自覚症状はほとんどありません。
B急性腎不全
なんらかの原因で腎臓の機能が急激に低下した状態で、腎臓に血液がいかなくなる(腎前性)、尿細管が破壊される(腎性)、結石や腫瘍のため尿管や膀胱がふさがる(腎後性)などがあります。
C慢性腎不全
数ヶ月から数年かけて腎機能がだんだん低下してくるものです。初期には自覚症状はほとんどなく、腎機能が正常の10〜50%くらいまで低下すると症状が現れてきます。比較的早くから見られるのは、脱力感と疲れやすさです。吐き気や嘔吐、皮膚のかゆみ、頭痛などが現れるころには「尿毒症」が始まっていると考えられます。腎臓が元の状態に回復することはありません。
Dネフローゼ症候群
糸球体が障害されると、たんぱく質がろ過されてたんぱく尿がみられるようになります。このような状態が続くものをネフローゼ症候群といいます。まぶたや顔、手足などにむくみが起きてきます。低たんぱく血症、腹水や胸水が見られるようになります。また、高血圧、血尿、高脂血症も見られます。
E尿毒症
腎不全が悪化・進行すると、腎臓の機能が極端に低下して全身にさまざまな症状がでてきます。尿毒症は腎不全の末期的な症状といえます。乏尿、無尿、むくみのほか心臓血管系や消化器系、神経系、皮膚、骨などにも症状が起きてきます。

◎慢性腎臓病(CKD)とは?

慢性腎臓病とは2002年にアメリカで提要された概念です。CKDは本来、慢性腎不全という腎機能低下を表す言葉ではありませんが、最近では「腎機能60%以下の慢性腎臓病」の意味で使われることが多くなっています。世界の共通語としてCKDが注目されるのは、@世界全体でCKDの終末医療となる透析医療費が莫大な額に達していること、ACKDが糖尿病や高血圧よりも強力な脳卒中、心筋梗塞の発症原因とわかったからです。

CKDは、糖尿病性腎症、腎炎、腎硬化症など原疾患にかかわりなく、@腎機能が健康な人の60%未満になる、A尿タンパクが出るなどの腎臓の異常がある、のいずれかまたは両方が3ヵ月以上続く状態と定義されています。

日本人の20%、5人に1人がCKDの状態にあてはまるといわれています。CKDがもっと進行すると「腎不全」になり、最終的には人工透析になってしまいます。透析の原因の第1位は糖尿病、2位は慢性腎炎、次が腎硬化症(高血圧が原因)で、この3つで8割を占めます。

国は透析医療費の抑制などを目的に、2007年から透析の危険因子であるCKD対策に取り組んでいます。しかし、尿タンパク陽性と指摘された人のうち、再検査を受けた人は半数にとどまるなど腎臓病への意識の低さが指摘されています。

尿検査(尿タンパク、尿アルブミン、血尿)と、血清クレアチニン値などから腎機能を見るeGFR(推算糸球体ろ過量)検査で基本的な診断がつきます。病期は尿タンパクが出ているだけのステージ1から末期腎不全・透析期のステージ5まで分類されます。

まずCKDに悪影響を及ぼす糖尿病、高血圧、脂質異常症を予防することです。目標は血糖値がヘモグロビンA1cが7未満、血圧は135/80〜85Hg未満、脂質はLDLコレステロールが100〜140mg/dl未満で、すでに腎臓や血管に病気のある人はさらに厳しく管理する必要があります。

そのために食塩摂取量は1日6グラム未満、適度な運動をして肥満を解消する、禁煙と禁酒、ステージに応じてたんぱく質、カリウム、リンの制限も必要になります。

むくみや貧血、疲労感などの自覚症状が出たときは、すでにかなり進行しているといわれます。放置せずに受診し、生活を改善すれば、透析や心筋梗塞などのリスク回避につながります。

日経メディカル2011年5月号に、慢性腎臓病(CKD)患者でNASH(非アルコール性脂肪肝炎)の合併頻度が高いことが報告されています。

◎前立腺肥大症とは?

前立腺は男性の膀胱の出口のところに尿道を囲むようにしてあります。この前立腺が肥大して尿道を圧迫するため、尿の出が悪くなる病気です。主な原因は老化現象ですが、男性ホルモンのバランスが変化することで起こるのではないかといわれています。はじめは尿が出るのに時間がかかったり、尿の出に勢いがなくなることで気づきます。そのうち尿がスッキリ出なくなり、夜中に尿意をもよおして、しばしば目覚めるようになり、急性完全尿閉になることもあります。

腎炎・ネフローゼに使う漢方薬には、小柴胡湯、柴苓湯、補中益気湯、小建中湯、当帰芍薬散、八味地黄丸、牛車腎気丸、猪苓湯合四物湯、五苓散、越婢加朮湯、猪苓湯、小青竜湯、竜胆瀉肝湯、通導散などを症状に応じ組み合わせて用いています。

前立腺肥大症には、八味地黄丸、牛車腎気丸、大黄牡丹皮湯、竜胆瀉肝湯、清心蓮子飲、猪苓湯、通導散などが症状に応じ組み合わせて用いています。

参考図書:腎臓病の話(椎貝達夫著・岩波新書)、症状からわかるからだの病気(瀬在幸安監修・法研)他