気になる病気の話⑨

◆内分泌・代謝系の病気◆~糖尿病、甲状腺機能異常、メタボリック症候群

内分泌・代謝系の代表的な病気には、糖尿病、高尿酸血症、痛風、甲状腺機能低下症・亢進症、橋本病、アジソン病、クッシング症候群などがあります。

内分泌とは細胞が合成したホルモンを血液中に分泌することをいいます。ホルモンは一種の情報伝達物質で、生体のホメオスタシス(恒常性)の維持や、成長や生殖などの生理的機能に重要な役割を担っています。ホルモンは、その場で作用を発揮するものではなく、血流で運ばれて遠く離れた臓器で作用を発揮します。内分泌器官には下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、性腺などがあります。ホルモンは糖や脂質といった血液中の栄養成分の量もコントロールしているので、その異常も内分泌に含めます。栄養成分のうち、糖が多すぎれば糖尿病、中性脂肪やコレステロールなどが多すぎれば高脂血症(脂質異常症)、細胞の分解産物の尿酸が多ければ高尿酸血症(痛風)、甲状腺ホルモンの数値が異常なら甲状腺機能異常です。

◎糖尿病とは?

私たちは血糖(血液中のブドウ糖)という物質をエネルギーとして生命活動を営んでいます。私たちはご飯やパン、果物などの食物を摂取していますが、これらの食物には「糖質」が含まれていて、それが消化吸収されるとブドウ糖となり血液中に入っていきます。血糖は糖質という物質をもとに生成されるため、食事後しばらくすると増えエネルギーとして利用されると減少し、食事をするとまた増えるというようなことを繰り返しており、血糖の数値は一定の範囲内で上下しているのです(健康な人では70mg/dl~130mg/dlの範囲内で変動)。

血糖はインスリンの働きによって体を動かすエネルギー源となったり、一部はグリコーゲンになって肝臓に蓄えられます。もし、インスリンが分泌されなかったり、量が少なかったり、うまく働かないと血液中のブドウ糖が増加し、血糖値の高い状態が続くことになります。血糖値が160~180mg/dlくらいになると、血液中のブドウ糖が尿へと漏れ出し、尿からブドウ糖が検出されるようになります(尿糖)。このように、本来なら細胞が取り込むべきエネルギー源の糖を取り込めずに、血液中に糖があふれている状態が「糖尿病」です。血糖値は糖尿病を診断するときだけでなく、すでに糖尿病の治療をしている人の血糖コントロール状態を判断する重要なデータになります。

糖尿病の初期には自覚症状はほとんどありません。ここに糖尿病の怖さがあります。しかし、喉が異常に渇く、尿の量や回数が増える、肥満、食欲が異常に強くなる、食べても痩せる、強い疲労感・倦怠感などの症状があれば要注意です。初診時に受診者の10人に1人がすでに軽い糖尿病性網膜症を発病しているといわれています。

糖尿病は大きく「1型糖尿病」と「2型糖尿病」にわけることができます。「1型糖尿病」はインスリンをまったく、あるいは、ほとんど作ることができないタイプで、自己免疫疾患やウイルス感染などにより、インスリンを生産している膵臓のβ細胞が障害を受けることにより発病します。インスリンを補給して血糖値を管理することが必要になります。
2型糖尿病」はインスリンの分泌量は十分にあるのに働きが悪い(インスリン抵抗性)ために、血液中のブドウ糖が細胞内にうまく取り込まれず、血糖値がコントロールできないタイプです。遺伝的な要因をもつ人や飲みすぎ・食べすぎ、肥満、ストレス、運動不足など生活習慣に関係した原因で発病します。長期にわたる過剰な栄養摂取と運動不足によって内臓脂肪が大量に蓄積された場合に、内臓脂肪が分泌するTNFαなどがインスリン抵抗性を引き起こし、慢性的な高血糖状態に至るのです。生活習慣を改善し、インスリンの働きを元に戻すことが必要になります。一般的に糖尿病という場合は「2型」を指します。

糖尿病の特徴的な合併症として、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害の三つがあり、これ以外になりやすい重大な合併症に動脈硬化があります。いずれも、高血糖状態が長く続くことにより、血管が傷んだり、神経が障害されたりする結果起こる病気です。糖尿病は「血管の病気」ともいえるのです。

血液中のグリコヘモグロビン(HbA1c)の量は、過去の血糖コントロールの状態を示します。これは血液の成分であるヘモグロビン(Hb)が高血糖にさらされ、ブドウ糖漬けの赤血球ができた状態であると考えてください。赤血球の寿命が3~4ヶ月で入れ替わりますから、検査の前1~2ヶ月間の平均的な血糖状態が反映されます。糖尿病を長期にコントロールしていく上で重要な目安となります。HbA1cを「大変良い」(5.8%未満)、「良い」(5.8~6.5%)に維持していけば、糖尿病の進行を食い止めて、合併症の発生を抑えることができます(正常値は5.5%以下です)。

①血糖値の目安はHbA1cで6.5%以下に
②体重の理想値はBMI(体重÷身長×身長)22に
③血圧の目標値は収縮期130mmHg以下、拡張期85mmHg以下に
④血清脂質はLDL(悪玉コレステロール)を減らし(120mg/dl未満)、HDL(善玉コレステロール)を増やす(40mg/dl以上)。

2012年4月からHbA1cの数値が変更になり、国際標準のNGSPが正式な値となります。
6.5以上は糖尿病が強く疑われる、血糖コントロールが優は6.2未満、良が6.2~6.9未満、不十分が6.9~7.4未満、不良が7.4~8.4未満、不可が8.4以上で、これまでの日本の数値に0.4ポイント上乗せとなります。この数値で糖尿病が改善したわけではありませんので、注意が必要です。

糖尿病の治療は、血糖値を正常に保つようにコントロールすることが基本です。予防には、生活習慣の見直しが一番です。バランスのよい食事、適正なカロリー摂取、飲みすぎない・食べ過ぎない、適度の運動をして基礎代謝率をあげることが必要です。

糖尿病に用いられる漢方薬には、白虎加人参湯、調胃承気湯、八味地黄丸、竜胆瀉肝湯、温清飲、十全大補湯、七物降下湯、牛車腎気丸などが症状に応じて組み合わせて使われています。

参考図書:糖尿病のすべてがわかる本(矢沢サイエンス編・Gakken)、病気が見える・代謝内分泌疾患(医療科学情報研究所編・メディックメディア)、糖尿病はこうして防ぐ、治す(河盛隆造監修・講談社)他

◎甲状腺機能亢進症と低下症

甲状腺は、甲状軟骨(のどぼとけ)の下に蝶が羽を広げたような形ではりついて、ヨードを原料にして甲状腺ホルモンをつくりだす内分泌器官です。甲状腺ホルモンの働きを一言でいえば、新陳代謝を活発にするホルモンです。生物が生きていく上でなくてはならないホルモンで、発育や成長に欠かせず、全身(脳、心臓、消化管、骨、筋肉、皮膚など)の新陳代謝を活発にする働きがあります。
発育盛りの子どもで不足すると、身長の発育がわるくなり、新生児では脳の発育が遅くなり知能障害を起す可能性があります(クレチン症)。しかし、甲状腺ホルモンが増えすぎるのも問題です。

甲状腺の病気は大きく分けると3種類あります。①甲状腺ホルモンが多すぎる病気(甲状腺機能亢進症)、②甲状腺ホルモンが少なすぎる病気(甲状腺機能低下症)、③甲状腺の腫瘍・炎症です。

生体には自分以外のものは排除する能力(免疫)が備わっています。体の外から異物(抗原)が侵入してくると、体にはそれをはねのける抗体ができます。次に同じ抗原が侵入した時には、抗体が追い出そうとします(抗原抗体反応)。これを免疫反応といいます。自分の体の成分に対する抗体が出来ないように監視し、出来てもすぐ壊れてしまうようになっていますが、人によっては、自分の体の成分を異物とみなして抗体を作ってしまったり(自己抗体)、自分の細胞を破壊してしまう素因をもつ人がいて、このような免疫異常で起こる病気を「自己免疫疾患」といいます。困ったことに甲状腺は体の中で最も自己抗体が出来やすいところなのです。

甲状腺の病気の代表的な「バセドウ病」や「橋本病」は甲状腺自己抗体が原因の自己免疫疾患です。一般的に自己免疫疾患は女性に多く、バセドウ病の80%、橋本病の95%近くは女性で占められています。それも20代から40代の女性に多い病気で、それが何故かはわかっておりません。

①バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンの分泌が何らかの原因で多くなりすぎるために起こる病気で、その多くは「バセドウ病」です。主な症状は甲状腺の腫れ、眼球が突き出す、脈が速くなる、不整脈、動悸がする、汗をかきやすい、疲労感、手の震え、イライラ、不眠、月経不順などです。原因は、自己免疫です。自分の甲状腺を異物とみなして攻撃するため、甲状腺ホルモンの分泌が多くなります。バセドウ病以外にも「亜急性甲状腺炎」などが原因で起こることもあります。

甲状腺機能亢進症に使う漢方薬は、炙甘草湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、半夏厚朴湯、抑肝散などを症状に応じて組み合わせて用います。

②橋本病(甲状腺機能低下症)
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの量が不足して新陳代謝が低下し老けていくような症状が見られます。甲状腺ホルモンの低下は、全身の活動性を低下させ、循環器、消化器、神経系などの機能異常をもたらします。そのため汗が出なくなる、手足が冷える、無気力になる、声がかすれる、顔がむくむ、まぶたが腫れるなどの症状や皮膚が乾燥してカサカサ、髪の毛にツヤがない、抜けやすい、月経不順や貧血などが起こります。甲状腺の機能が低下する原因は様々ですが最も多いのは「橋本病」です。

甲状腺機能低下症に使う漢方薬は、補中益気湯、真武湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、芎帰(きゅうき)調血飲第一加減、麻子仁丸、潤腸湯などを症状に応じて組み合わせて用います。

*「きゅう」という字は、“クサカンムリ”に弓と書きます。

甲状腺の病気は多彩な症状により、更年期障害、自律神経失調症、うつ病、糖尿病、高血圧症、認知症、心臓病、肝臓病、腎臓病などと間違えられやすいのです。適切な診断と確実な治療を受ければ、元気に健康人と同じ生活をすることが可能です。どうも体の調子が悪く、いろいろ治療してもスッキリしないという方は、先ず甲状腺の検査をされることをお薦めします。“治療の長びく症状はホルモン病を疑え!!”これは鎮目和夫東京女子医大名誉教授の著書のタイトルです。

参考図書:甲状腺の病気がわかる本(栗原英夫著・法研)、病気が見える・代謝内分泌疾患(メディックメディア)他

◎メタボリック・シンドロームとは?

メタボリック・シンドロームは代謝異常症候群です。代謝異常症候群とは、血液中の糖や脂肪を分解する体の代謝が正常でなくなる症候群のことです。内臓脂肪が過剰に溜まってくると起きやすくなります。40歳以上の男性に多く、心臓病や糖尿病などのリスクが大幅に上昇することが判明しています。

血圧、血糖値、脂質が少しずつ上昇し、動脈硬化になりやすい危険が増す背景には肥満があります。体内に蓄積した脂肪はインスリンの働きを弱め、「インスリン抵抗性」という状態を引き起こし、血糖値が上がるだけでなく、中性脂肪が上昇し、インスリンが過剰に分泌されることで血圧が上がり、HDLlコレステロール(善玉)が低下します。諸悪の根源は内臓脂肪にあるといえます。

動脈硬化の危険因子である肥満、耐糖能異常(糖尿病)、高脂血症(高中性脂肪)、高血圧などが同じ人に合併して起こり、そのような人では冠状動脈疾患が多発しやすいことから、そのような状態を「死の四重奏」と言っていましたが、現在では「メタボリック・シンドローム」と呼ばれています。

これらの一つ一つは重い病気とは見なされないのですが、一つでもあると長い年月の間に動脈硬化を引き起こします。四つの因子が重なると、より動脈硬化が加速され心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの危険が高まります。それぞれの因子は足し算ではなく掛け算で危険度が増します(喫煙が加わると死の五重奏となります)。

脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン物質群(アディポネクチンなど)は、通常は、動脈硬化を防ぐ物質と促進する物質が均衡していますが、内臓脂肪が増えすぎると動脈硬化を防ぐアディポネクチンの働きが悪くなることがわかってきました。

メタボリック症候群の状態から脱出し、動脈硬化の進行を食い止めるには、食生活の改善と運動により腹部の脂肪を減らすことです。摂取エネルギーを控えること、運動不足の解消に意識的に体を動かすこと、できるだけたくさん歩くようにすることです。コレステロールを多く含む食品を減らす、アルコールを減らす、食物繊維・野菜を積極的に摂取するなどです。

メタボリック症候群に使う漢方薬は、
高血圧には:八味地黄丸、防風通聖散、温清飲、加味逍遙散、抑肝散などを
高脂血症には:八味地黄丸、柴胡剤、加味逍遙散、当帰芍薬散などを
高血糖には:八味地黄丸、清心蓮子飲、調胃承気湯、白虎加人参湯などを
肥満には:柴胡剤、防風通聖散、九味梹榔湯などを、症状に応じて組み合わせて用います。

参考図書:専門医がすすめる「特定健診・メタボ」攻略法(和田高士著・アスキー新書)、奇跡のホルモン「アディポネクチン」(岡部正著・講談社)他