健康に関する話題⑩
◆ミトコンドリアの働きと病気について◆


人体には約60兆個の細胞があり、生命維持活動を行っていますが、ミトコンドリアはこれ等細胞のすべてに存在する細胞小器官です。そして各細胞が活動するために必要なエネルギーを生産する働きをしています。そのためミトコンドリアは人体の発電所といわれています。

細胞は細胞呼吸によってエネルギーを得ています。細胞呼吸において重要な役割をしているのがミトコンドリアなのです。細胞ではブドウ糖などの有機物を取り入れ、酸素を用いてこれを分解し、二酸化炭素と水を放出します。この過程でエネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)を得ています。このATPをADP(アデノシン二リン酸)に分解する際に得られるエネルギーを生命活動に利用しているのです。

ミトコンドリアは脂肪の中に内膜と外膜の二重の膜で覆われる形で存在し、その内膜の中に糖質や脂質の代謝に関わるATPを生産する回路(TCA回路)を持っています。内膜にATPをつくり出すための準備をする4つの酵素の塊(複合体Ⅰ~Ⅳ)と、最終的にATPをつくり出すATP合成酵素が埋め込まれています。

ミトコンドリアは内膜と外膜の間に水素イオンを貯めこみ、ATP合成酵素の穴から一気にミトコンドリアの中に放出します。その時のエネルギーでATPをつくります(ATP合成酵素は1秒間に30回転しながらATPをつくります)。プラスの電子をもつ水素イオンができる時、マイナスの電子が生じます。ミトコンドリアはできた電子を処理するため複合体(Ⅰ~Ⅳ)へ電子リレーしていき、複合体Ⅳで肺から運ばれてきた酸素に渡します。酸素は水素と結びつき水になります。だからATPをつくるときに酸素が必要なのです。

複合体(Ⅰ~Ⅳ)とATP合成酵素を合わせて「電子伝達系」と呼びます。ミトコンドリアの機能が落ちてくると、電子伝達系での電子リレーがうまくいかなくなって、酸素が電子のバトンを落としてしまい「活性酸素」ができてしまうのです。

細胞が取り入れたブドウ糖は細胞質でピルビン酸になり、この時1分子のブドウ糖から2分子のATPができます。これを(嫌気的)解糖系といい、ここでは酸素分子を必要としません。
ピルビン酸はミトコンドリアに運ばれ、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)の作用でアセチルCoAへ変化します。脂肪はパルミチン酸に分解され、カルニチンの助けによりミトコンドリアに運ばれアセチルCoAに変換されます。TCA回路では脱水素酵素と脱炭酸酵素などによる共同作業により二酸化炭素と水素原子に分解されます。ここでは2分子のATPができます。

TCA回路に入ったアセチルCoAはさまざまな中間代謝物へと変換され、その過程で水素原子がいくつか引き抜かれ補酵素に吸収されます。TCA回路によってブドウ糖から取り出された水素原子(H)は、さらに電子(e)が抜き取られて水素イオン(H+)になります。水素原子から分離した電子は、ミトコンドリアの内膜に埋め込まれている電子伝達系タンパク群により電子リレーされ、最終的に酸素分子に渡されてO2-となり、水素イオンと反応して水になります。この反応を電子伝達系といい34分子のATPがつくられます。

電子伝達系で電子を伝えるメッセンジャーの役目を果たす物質が「コエンザイQ10(CoQ10)」や「シトクロムc」なのです。
コエンザイムQ10(CoQ10)には2つの重要な役割があります。
①ミトコンドリア内膜で電子伝達系のメッセンジャーの仕事を担う
②身体のあちこちに遍在して抗酸化作用を発揮する

電子伝達の媒体であるコエンザイムQ10やシトクロムcは一度に一つの電子しか受け渡しできないという弱点があり、忙しさのあまり処理しきれずに電子が漏れ出してしまうと、近くにある酸素分子に吸収されスーパーオキシドアニオンラジカルという「活性酸素」が発生してしまいます。ミトコンドリアはエネルギー生産の過程で活性酸素を放出してしまう宿命を負っているのです。

しかし、私たちの体には活性酸素を無毒化する酵素が数多く備わっています。スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンペリオキシダーゼ、カタラーゼなどです。

ミトコンドリアの主要な機能は電子伝達系によるATPの産生です。細胞のさまざまな活動に必要なエネルギーのほとんどは、直接・間接的にミトコンドリアからATPの形で供給されています。ステロイドやヘムの合成などを含むさまざまな代謝、カルシウムや鉄の細胞内濃度の調節、細胞周期やアポトーシス(細胞死)の調節などにも大きく関わっています。

こうしたさまざまな機能には多数の遺伝子が関わっており、それらに異変が起きるとミトコンリア病を引き起こすことになります。
近年、がんの発生にミトコンドリアやミトコンドリアDNAが関与しているという「ミトコンドリア原因説」が提唱されています。
ミトコンドリアの異常が男性の不妊をひきおこすことを筑波大学の中田和人助教授らがマウス実験で突き止めています。
新潟大学の安保徹教授はミトコンドリアの働きについて「精子は陰囊のなかで外気で冷やすことで精子の分裂を促進させるが、女性は胎児期に卵母細胞が分裂を終えているので卵母細胞を成熟させるには冷やしてはいけない」と言われています。

84歳以上の人のミトコンドリア機能は若年者に比べてATPを生み出す力が46%も低く(老化)、老化すると細胞のリニューアルが傷害され「がん」を発症しやすくなります。ミトコンドリアDNAに異常ががあるとアポトーシス(細胞死)が起きにくくなり「がん」を発症しやすくなります。
ミトコンドリアの異常が生み出す病気
・生活習慣病・・・肥満、高脂血症、糖尿病、メタボリックシンドロームなど
・老年病・・・アルツハイマー病、脳変性疾患、老化など
・遺伝病・・・ミトコンドリア病など
・がん
・慢性腎臓病(CKD)
・不妊・・・生殖細胞をつくるにはミトコンドリア遺伝子が必要

若返りのカギはミトコンドリア(H.22年12月11日大分合同新聞記事より引用)
われわれの体の細胞の中でエネルギーをつくっているミトコンドリア。細胞内小器官とも呼ばれる、この小さなミトコンドリアが健康や若返りに密接に関わりを持っていることが最新の研究で明らかになった。

「老いとは、体が持っている、エネルギーをつくる能力が低下すること。その点で、若返りの鍵を握っているのがミトコンドリア」。体の衰えがエネルギーをつくる能力の低下であることを示す分かりやすい例が「中年太り」。これはエネルギーをつくる能力が衰えたために、食事で取り込んだエネルギーの原料を使いきれずに余らせてしまうから。

エネルギーをつくる能力をアップさせることができれば、体力がアップする上、若々しく太りにくい体になる。このエネルギーをつくる能力のアップこそ、体を若々しくする機能の正体で、それはミトコンドリアの量を増やすこと。

ミトコンドリアを増やすには、①やや強めの有酸素運動をする、②背筋を伸ばす、③寒さを感じる、④空腹を感じる、の四つ。神経細胞のミトコンドリアを増やすには、脳の血流を増やす。運動は間接的に脳の血流を増やすことになるのでお勧め。また新しいことに興味を持つことも脳の血流を増やすことになる。

太田教授は「生命の根源であるミトコンドリアを増やせば、10年ぐらいは簡単に若くなるはず」と話している(日本医大教授・太田成男))

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参考図書:ミトコンドリアのちから(瀬名秀明・太田成男著・新潮文庫)、ミトコンドリアの謎(河野重行著・講談社)、ミトコンドリア・ミステリー(林純一著・講談社)、臓器は若返る(伊藤裕著・朝日新聞出版)、好きになる分子生物学(萩原清文著・講談社)、体が若くなる技術(太田成男著・サンマーク出版)、大分合同新聞記事ほか