健康に関する話題K
◆一酸化窒素(NO)と病気について◆


一酸化窒素は、窒素と酸素からなる化合物でNOで表され、酸化窒素とも呼ばれています。自然界では、主として雷や山火事によって生じますが、発生源の大部分は人為的なもので、ボイラー、自動車の排気ガス、焼却炉、石油ストーブなどです。大気汚染で問題となる窒素化合物(NOX)の一つです。

一酸化窒素(NO)は私たちの体も発生源で、主に血管内皮(血管壁を覆う細胞)で産生されます。生体内での一酸化窒素(NO)は、一酸化窒素合成酵素(NOS)によってアルギニンと酸素から合成されます。一酸化窒素(NO)は細胞内の可溶性ギアニル酸シクラーゼを活性化して、サイクリックGMP(cGMP)を合成することによりシグナル伝達に関与しています。一酸化窒素(NO)は脳や肺の神経細胞でもつくられ、白血球でも産生されています。

血管内皮は一酸化窒素(NO)をシグナルとして周囲の平滑筋を弛緩させ、動脈を拡張させて血流量を増やします。これがニトログリセリンなどが心臓病の治療に用いられる理由です。発毛剤リアップはcGMP分解を抑制して毛細血管の血流量を増やします。一酸化窒素(NO)は陰茎の勃起にも働きバイアグラはこのメカニズムを利用したものです。

免疫細胞の一種マクロファージは病原体を殺すために一酸化窒素(NO)を産生します。しかし、敗血症ではマクロファージが大量の一酸化窒素(NO)を産生するため血管が拡張して低血圧の原因になると考えられています。

一酸化窒素(NO)は神経伝達物質としても働きます。シナプス間隙のみで働く神経伝達物質と異なり、広い範囲に拡散して周辺の神経細胞にも影響を与えます。このメカニズムが記憶形成にも関与すると考えられています。

身体には血管緊張、血液凝固、炎症、酸化という4つの重要な生理作用があります。一酸化窒素(NO)は弛緩、すなわち巾を広げることを血管に伝える信号伝達分子のため、すべての血管のしなやかさを維持するのに役立ちます。

・身体の全ての部分への血流を調整する血管拡張物質としての役割をします
・脳卒中や心臓発作の原因となる血餅の生成を阻害し血圧を調整します
・糖尿病患者の血流障害に関する合併症を予防します
・脳が細胞伝達だけでなく記憶の保管や検索に利用します(記憶機能)
・免疫系は感染、細菌、ウイルス、寄生虫の駆除、がん性細胞の増殖を抑えます
・胃潰瘍の発生を抑制します
・生殖器への血流を増大させます(生殖機能)
・抗酸化作用で、がん、糖尿病、心臓病、脳卒中など活性酸素が関与する病気を非活性化します

血管を柔軟にする一酸化窒素(NO)は高血圧、心疾患、メタボリックシンドロームの危険因子に効果を発揮します。心臓と血管は血液を介して酸素・水分・栄養分を全身に送り届け、同時に老廃物を回収し排出しています。血管は体の全細胞をコントロールしている重要な器官です。血管の柔軟性を保つことが健康と若々しさを保つ秘訣といえます。

一酸化窒素(NO)の働きによって心臓や血管に関わるさまざまな疾患の予防や改善が期待されます。メタボリックシンドロームは、お腹周りのほかに高血圧、高血糖、高コレステロールなどの危険因子が増えるほど心臓病の発症リスクが高くなることがわかっています。これらは血液と血管に関連したものです。

一酸化窒素(NO)が関わる病気
*不足した場合・・・高血圧、高脂血症、動脈硬化、心不全、冠動脈痙縮、勃起不全
*多すぎる場合・・・神経細胞死に伴う脳の病気(脳卒中、老年性認知症、ハンチントン病、パーキンソン病)

1998年のノーベル生理学・医学賞は一酸化窒素機能の発見により、ムラド、ファーチゴット、イグナロの3氏に授与されました。イグナロ博士は、一酸化窒素(NO)が人間の体内では、糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞などの原因となる「血管病」を治す物質であること、一酸化窒素(NO)を増やし血管を強くすれば健康に生きることができるとその実践法を書いておられます。

参考図書:NO 一酸化窒素 宇宙から細胞まで(吉村哲彦著・共立出版)、NOでアンチエイジング(ルイス・J・イグナロ著・日経BP)、ウイキペディア(Wikipedia)