健康に関する話題@

◆ガン(悪性腫瘍)について◆

がんが発生するしくみ
私たちの体は約60兆個の細胞で成り立ち、それらの細胞は古くなると死に、新しい細胞と入れ替わりながら生命活動を行い健康を維持しています。ところが、ある日突然その細胞が変異を起し際限なく増殖を繰り返すようになります。これが“がん”です。

何故、正常細胞が突然変異を起すのでしょうか?
実は、私たちの細胞のすべてに、がん化する可能性のある「がん遺伝子」が潜んでいますが、普段はおとなしく眠っています。それを目覚めさせるのが「イニシエーター」といわれる発がんをしかける物質です。これによって正常細胞は潜在的な腫瘍細胞に変りますが、これだけではまだ「がん」にはなりません。これを本物のがんにかえるのが「プロモーター」といわれる発がんを促進する物質です。プロモーターによってがん化した細胞は、すっかり性質を変え無秩序に増殖するようになります。

がん遺伝子はこれらの発がん物質に刺激されて活性化し、がん細胞へと変貌していきます。しかし、これを抑制する「がん抑制遺伝子」も細胞の中には存在しています。細胞ががん化するには、がん遺伝子が活性化するだけでなく、がん抑制遺伝子が何らかの原因で不活性になること、この二つの条件が必要なのです。

がんと他の病気との違い
たとえば、いまだにほとんど有効な治療法がないアルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症などは、特定の臓器や組織が侵されるものです。インフルエンザや肺炎、エイズなどは、外から体内に侵入するウイルスや細菌が引き起こす感染症です。ところが、がんは特定の臓器や組織の病気でもなく、一般的な感染症でもありません。がんは『細胞の異常な増殖によって生じる100種類以上の病気の総称』で、異常な細胞が成長の過程で引き起こすさまざまな障害ということになります。

がん細胞は、すばやく成長し、増殖をやめず、遠くの臓器に転移しそこで成長する性質をもっているので「悪性腫瘍」と呼ばれています。がん細胞は、抗がん剤治療、放射線治療、温熱療法などを繰り返すうちに抵抗力をもつようになります。がんが次第に手に負えなくなることを「がんが悪性化する」といいます。さらに、がん細胞は自分が生き、かつ増殖するために自分の内部に毛細血管を引き込み、栄養と酸素を補給することができます。こうして見ると、がんは他の病気と異なることがよくわかります。

がん細胞は利己的
がんはもともと自分の体の一部として従順に振舞っていた細胞が反乱を起し、異常に増殖するようになったものです。細胞ががん化する原因は多種多様で、さらにがん化した細胞の性質もそれぞれ微妙に異なり、しかも次第に性質が変化していきます。遺伝子の変異を積み重ねた結果、とめどもなく増殖するがん細胞はどこまでも利己的に振舞うようになるのです。

@勝手に増える、A増殖するなという命令を無視する、B死ぬべきときに死なない(寿命がない)、C外から血管を呼び込む(新生血管)、D体内の1ヵ所にとどまらない(転移)、E変異しやすい遺伝子
がんはこうした遺伝子の変異を繰り返すことにより、自分自身が生き残るために必要なさまざまな能力を身につけていくのです。

がんの治療
がん治療のうえで大事なことは、がんの「拡がり」や「悪性度」がどうかということです。「拡がり」とは、主にがん細胞ができてからの時間経過で決まり、増えたがんの数、増え方のパターンのことです。「悪性度」とは、がん細胞の量的な拡がりだけでなく、個々のがん細胞そのものの性質が騒がしいか、おとなしいかということです。悪性度の大きな判断基準は、がんが転移性であるかどうかということです。

がんが発生した臓器にとどまっているときと、周りの臓器に浸潤したり、遠く離れた別の臓器に転移しているときでは、治療の考え方が根本的に違ってきます。がんがどの程度進行しているか病期として捉え、悪性度を見て治療方針がたてられます。手術療法(外科で摘る)、放射線療法(放射線で灼く)、化学療法(抗がん剤で叩く)のほか新生血管阻止(兵糧攻め)、免疫療法(免疫力を高める)、温熱療法、ワクチン療法、遺伝子療法などが試みられています。
一言で「がん」といっても、実は多様な病気であり、一つ一つのがんが個性をもつので、がんの個性を詳しく知ったうえで治療方針がたてられるのです。

がんと免疫の関係
私たちの体の約60兆個の細胞のうちの1個ががん細胞に変異すると、このがん細胞は2個、4個、8個、16個と分裂して増え続け、これを30回繰り返すと10億個、約1cm(約1g)のがん細胞になります。さらにもう10回分裂すると約10cm(約1kg)のがん細胞に成長するのです。がん細胞が発生してから1kgにまで成長するには、およそ10〜20年の期間がかかるであろうといわれています。

誰でも生まれつき発がん遺伝子をもっており、健康な人でも1日に数千個ものがん細胞が発生しているといわれています。しかし、すべての人ががんになるわけではないのは、免疫細胞ががんの芽を未然に摘み取ってくれるからです。

がんにおける免疫力とは、がん細胞をやっつける総合的な力のことで、数多くの免疫物質があたっています。人間には1〜2兆個もの免疫細胞が存在しており、本来、病気に対して自然治癒力が働きますが、がんを治すためにも自然治癒力(免疫力)が鍵となるのです。免疫力が強くなれば、がん細胞に大きなダメージを与えることができます。

健康な人はキラーT細胞やナチュラルキラーT細胞に活性がありますが、がんを発病した人はこれらの活性が落ちているケースが多く見られます。免疫力を高めることにより、活性が高まってきてQOL(生活の質)の改善などが見られるようになります。

がんと漢方治療の目的
手術後の体力回復や抗がん剤等の副作用防止、再発予防などの目的には漢方薬が役立ちます。
@がん治療に耐えるからだの土台をつくる
A生体機能調節によりQOLを高める
Bがんの化学療法や放射線療法の効果を高める

体力の回復:補中益気湯、十全大補湯、人参養栄湯など
抗がん剤や放射線療法の副作用軽減:五苓散、半夏瀉心湯、小半夏加茯苓湯、柴苓湯、加味帰脾湯、十全大補湯など
術後の改善:大建中湯、六君子湯、啓脾湯、半夏厚朴湯、加味逍遙散、麦門冬湯など

参考図書:がんの治療(小林博著・岩波新書)、がんのすべてがわかる本(矢沢サイエンス編・学研)、免疫力でがんに打ち勝つ(水上治著)、からだにやさしい漢方がん治療(福田一典著・主婦の友社)、生と死の謎に挑む(立花隆著・文芸春秋)他