健康に関する話題B

◆たんぱく質と生命◆〜病気の陰にたんぱく質の異常あり〜

人の体はたんぱく質からできています。そのたんぱく質はアミノ酸が重なって結合している鎖状の物質なのです。人では20種類のアミノ酸からできており、体内で合成することができないアミノ酸を「必須アミノ酸」と呼んでいます。アミノ酸同士はペプチド結合でつながっています。たんぱく質のアミノ酸の並び方は、遺伝子に書き込まれた遺伝情報に基づいて定められているのです。アミノ酸が枝分かれせずに、一列に1本のヒモとしてつながっています。

アミノ酸からたんぱく質を組み立てるには、必ず酵素が必要になります。いろいろな酵素の働きによってアミノ酸からたんぱく質へと組み立てられ私たちの体が完成します。この酵素もアミノ酸から成り立っています。たんぱく質は、私たちの体の最も小さな単位である細胞の生命の営みそのものを担う、最も大きな働き手なのです。

たんぱく質はつくられるだけではダメで、本来働くべき正しい場所に輸送されないと機能しません。「ここへ行きなさい」という指定と「ここにとどまりなさい」という指定がたんぱく質の遺伝子に書き込まれています。さらに、たんぱく質自身の病気ともいえる、異常なたんぱく質の生成をいちはやく対処する細胞の危機管理能力があり、そのような危機管理システムが破綻することが、即、病気に直結します。

つくられてしまった不良品のたんぱく質がそのまま放置されては、細胞が生きていくための障害になります。不良品をきちんとより分け、故障を修理し、不良品を分解・廃棄していかねばなりません。最近の研究により細胞では各段階でのたんぱく質品質管理機構が働いていることがわかってきました。

私たちのたんぱく質は、生体内で常に合成されつつ、同時に分解を受けています。常に古いたんぱく質は壊され、新しいたんぱく質がつくられていくのです。老化したたんぱく質が細胞に蓄積することになると、すぐさま病気につながってしまいます。

さまざまな病気には、そのどこかにたんぱく質が関わっています。ある場合には、生命活動に必須のたんぱく質が欠如したり、異常を起したりして正常な生命活動を営めなくなったり、あるいは異常なたんぱく質が蓄積してアルツハイマー病のように私たちの神経細胞を損なったりします。

たんぱく質の品質管理が破綻し、不良品が生じた場合には病気が発症します。中でも遺伝病(フェニルケトン尿症、血友病、緑内障など)と神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など)はたんぱく質合成と密接に関係しています。たんぱく質の中にたとえ1個でも違うアミノ酸が挟まれば、働きのないたんぱく質がつくられることがあり、これが病気に結びつくこともあります(鎌形赤血球貧血)。

遺伝子に変異が生じて、その結果たんぱく質がつくられなくなったり、つくられても機能をもたないあるいは機能低下を引き起こすなどの事態が生じ、そのために病気になります。これが従来の「遺伝病」の概念でした。ところが、たんぱく質の機能喪失が原因ではなく、いったんつくられたたんぱく質が凝集したり変性したりすることによって生じるものもあることがわかってきました(白内障、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ポリグルタミン病、プリオン病など)。

特定のたんぱく質の機能が損なわれたのではなく、そのたんぱく質の機能とは関係なく、そのたんぱく質の不安定性のためにたんぱく質の凝集体をつくり、それが細胞に毒性を与えることによって神経細胞脱落などの症状を呈することになるというものです。

たんぱく質の品質管理が生命体にとっていかに重要かということを示しています。細胞でのたんぱく質の品質管理機構をうまく働かせるには、変性したたんぱく質を認識して分解すべく印(ユビキチン)をつけ、特定の殺し屋(プロテアソーム)に分解してもらう認識システムを健全に働かせることです。

参考図書:タンパク質の反乱(石浦章一著・講談社)、タンパク質の一生(永田和宏著・岩波書店)、タンパク質の生命科学(池内俊彦著・中公新書)他