健康に関する話題D

◆腎虚とは?◆

腎虚とは、漢方医学でいう内分泌系や免疫機能など全般の機能低下により生じる症状を意味します。中医学でいう“腎”とは、単に腎臓のことではなく、脳下垂体、副腎、性腺、甲状腺、膵臓などのホルモン系や泌尿生殖器、免疫に対する働きなどが含まれます。つまり、体を健康に保つための調節器の役目をしているわけです。この働きが衰えることを“腎虚”といい、腎虚が進むと人間のもつ生命力や自然治癒力が低下し、いろいろな症状が出てきます。

五行学説では、まず五臓を臓腑、経絡に配分したうえで、各項目について五臓への所属関係を示しています。五臓のうち“腎”は水を主る機能を有し、五腑では膀胱、五根では耳、五体では骨髄が腎に所属しています。

漢方医学でいう腎は現代医学の腎のそれではありません。黄帝内経素問では、生殖機能に力点をおき、男子は8歳ごとに64歳までの身体機能の動きを、女子は7歳おきに49歳までのそれを腎の働きの消長との関連で述べ、老化予防の原則に言及しています。また、腎は体液を管掌し、各器官の精気を受けて貯蔵しておく臓器であるとしています。

中医学の「腎の生理」
@腎は精を蔵し、発育・生殖を主る・・・腎は成長、発育、性欲、生殖と深くかかわり、腎精が不足すると、幼児期では歩くのが遅い、歯が生えるのが遅い、体が小さい、よく転ぶなどが、成長期以降は初潮が遅いなどの発育遅滞現象や不妊、性欲減退、インポテンツ、閉経が早いなどの性欲・生殖機能の低下および歯が抜ける、髪が白くなる、聴力の低下、尿失禁、足腰の衰えなどの老化現象が現れます。
精とは生命の根本をなすもので、父母から受け継いだ精(先天の精)が、飲食物からつくられた水穀の精(後天の精)の滋養をうけて形成されます。精は腎に蓄えられているので腎精というのです。腎精が充実すると、人の体は成長、発育し、腎精が衰えると老化が始まります。
A腎は水を主る・・・腎は水液の代謝を行い、この働きが失調すると、尿が少ない、尿に勢いがない、水液が停滞するとむくみが現れます。
B腎は納気を主る・・・腎は精気を蓄えます。呼気は肺、吸気は腎といわれます。
C腎は骨を主り、髄を生じ、脳に通ず・・・この働きが失調すると、骨が脆い、骨の老化現象、めまい、頭がぼーっとするなどの症状が現れます。
D腎は二陰に開竅す・・・腎の働きに異常をきたすと、排尿困難、遺精、流産、排便異常などが現れます。

このような腎の機能の低下した状態を「腎虚」と呼んでいます。現代医学でいう腎臓の機能障害とは異なり、頻尿、性欲・精力の減退、耳鳴り、身体のだるさ、手足のむくみなどが現れるとされています。腎虚とは意味内容が曖昧であるため、下世話に「陰痿」など広く精力減退を指す言葉として一般に用いられているようですが、それはほんの一部のことです。

腎虚の症状
@生殖機能・・・インポテンツ、不妊
A成長過程・・・老化、発育不良
B水分代謝の調節・・・尿利異常(多尿・頻尿・失禁)、口渇、むくみ
C生命力、精力の貯蔵・・・疲れやすい、病気にかかりやすい
D毛髪・・・・・・ 白髪、抜け毛、カサカサして乾く
E耳・・・・・・・・耳鳴り、難聴
F骨、歯・・・・・骨が折れやすい、歯がぐらつく、虫歯が多い
G骨髄、脳・・・健忘、注意力散漫、ノイローゼ
H気を納める・・・呼吸困難、ぜんそく、気管支炎、鼻炎
I腰は腎の器・・・足腰の痛み、足腰の衰弱

腎虚になる原因としては、食生活、運動不足、ストレスなどがあげられます。

漢方では、六味地黄丸、八味地黄丸、瓊玉膏などに代表される「補腎剤」を用います。

参考図書:わかる中医学入門(邱紅梅著・燎原)、臨床医のための漢方(松田邦夫・稲木一元共著・カレントテラピー)他