健康に関する話題E

◆油脂(アブラ)と病気の関係◆

脂質のはたらき
食事から摂った脂質は、体内ではグリセリンと脂肪酸として別々に利用されます。グリセリンは糖質からもつくられるので必須ではありませんが、脂肪酸は重要な働きをもっていて必須のものがあります。

脂肪酸の働きには3つあります。
@長期間貯えることができるエネルギー源となる。
A体のさまざまな細胞の細胞膜と、ミトコンドリアなどの細胞内小器官の膜をつくる。
B体の機能を調節するエイコサノイドというホルモン様物質をつくる。
特にAとBの脂肪酸がリノール酸の仲間であるか、リノレン酸の仲間であるかによって体の働きが大きく変化し、その結果、さまざまな生活習慣病の発症につながることが明らかになっています。

脂肪酸の種類
まず飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けることができます。
不飽和脂肪酸はさらにオレイン酸型、リノール酸型、リノレン酸型に分けられます。オレイン酸は人の体でもつくられますが、他の2つ(リノール酸、リノレン酸)はつくることができず、毎日食事から摂らなければならない必須脂肪酸です。

@飽和脂肪酸(脂)・・・・・・豚脂(ラード)、牛脂(ヘットまたはタロー)など
A不飽和脂肪酸(油)・・・・オレイン酸(一価不飽和脂肪酸・オメガ(ω)9系)
                 リノール酸(多価不飽和脂肪酸・オメガ(ω)6系)
                 リノレン酸(多価不飽和脂肪酸・オメガ(ω)3系)
リノール酸とリノレン酸では、不飽和結合の位置や数により立体的な形が異なり、細胞膜の働きへの影響、つくられるホルモンの働きが大きく異なります。

   多価不飽和脂肪酸      ω3系(αリノレン酸) ⇒  EPA・DHA            
                     ω6系(リノール酸)  ⇒  アラキドン酸
   
脂肪酸の種類の違いについて
脂肪酸は体を構成している約60兆個の細胞の膜と、細胞内のミトコンドリアなどの小器官の膜をつくるのに使われています。体の働きを行う酵素は、膜の助けを借りて働いています。また膜は物質輸送の場でもあります。膜には食べた脂肪酸がそのまま使われるので、どのような種類の脂肪酸を含む脂質を食べたかにより、細胞膜の状態が大きく異なり、細胞の働きが左右されます。

例えばミトコンドリアで働く酵素はリノール酸型の脂肪酸により膜に支えられていますが、もし、これがリノレン酸型などの他の脂肪酸だと酵素は膜から離れてしまい、エネルギーをつくることができません。

神経細胞はナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えることで神経を伝達しています。このナトリウムイオンとカリウムイオンを入れ換えるたんぱく質を挟み込むように固定しているのがDHAやEPAです。もし、この脂肪酸がリノール酸型であれば、たんぱく質は固定できず神経は伝達できません。

脂肪酸の種類によるもう一つの大きな違いは、膜の柔らかさです。融点が低い脂肪酸の方が体温では柔らかいのです。これらの脂肪酸がさまざまな組合せで膜をつくるのですが、その組合せにより膜の硬さ、つまり動きやすさが異なるのです。どのような組み合わせがよいのかはそれぞれの細胞が決めます。

必須脂肪酸について
必須脂肪酸に含まれるものにはリノール酸、アラキドン酸、αリノレン酸、EPA、DHAなどがあります。これらは細胞膜のリン脂質の構成要素で、プロスタグランディン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどのエイコサノイドを産生します。

「リノール酸」は成長、生殖生理や皮膚の状態を正常に維持するうえで必須です。摂取されたリノール酸は人の体の機能を保つために必要なアラキドン酸に変換されます。しかし、アラキドン酸が過剰になると血圧を上げ、血液の凝固を促進し、アレルギー症状を悪化させます。

「αリノレン酸」は学習機能や網膜機能を高く保つうえで必須です。αリノレン酸はリノール酸系列の代謝を阻害し、アラキドン酸由来のエイコサノイドからの影響を和らげます。αリノレン酸がEPA、さらにDHAに変換されると血小板凝集の抑制、血管拡張、アラキドン酸作用を抑制します。DHAは脳、神経細胞の機能を働かせる作用を持っています。

「エイコノサイド」は細胞膜をつくっているリン脂質の多価不飽和脂肪酸からつくられます。そして材料になる脂肪酸の種類により正反対の指令を出すエイコサノイドになります。大まかにいうと、リノール酸型(主にアラキドン酸)は血管の収縮や血液を固めるエイコサノイドを、リノレン酸型(主にEPA)はその逆の作用をするものをつくります。他にもアレルギーに敏感にさせるのはリノール酸型で、ストレスも誘発します。

こうしてみるとリノール酸型は好ましくない脂肪酸のように見えますが、リノレン酸型が多すぎると怪我をしたときに血が止まりにくくなり、内出血も止まりません。リノール酸型とリノレン酸型の適度なバランスが重要です。
第6次改定栄養所要量の中で、リノール酸型とリノレン酸型の摂取比を4:1、さらに飽和脂肪酸:オレイン酸:多価不飽和脂肪酸の比率を、おおむね3:4:3と推奨されています。

戦後の日本人の脂肪摂取量は1日20gぐらいであったものが、1960年以降は約3倍に増え、ω6系脂肪酸(リノール酸)も1日5〜6gが14〜15gに増えていますが、ω3系脂肪酸(αリノレン酸)はそれほど増えていません。

調理に使う油脂
大きく分けて動物性脂肪の飽和脂肪酸(獣肉油脂、牛乳、卵に含まれる)、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸(野菜、種子、芋類、海藻、魚に含まれる)などに分かれます。
多価不飽和脂肪酸には、必須脂肪酸のオメガ(ω)6系不飽和脂肪酸(リノール酸)とオメガ(ω)3系不飽和脂肪酸(αリノレン酸)が含まれます。

@植物性油脂(不飽和脂肪酸)に人工的に水素を添加し固化させた硬化油脂(マーガリン、ショートニング)、
Aヘキサンなどの溶媒を使った植物性油脂(市販の大豆油、コーン油、米油、ナタネ油、綿実油など)、
B高温の植物性油脂を使って調理した食品(揚げ物、フライ、天ぷら)、
C植物性油脂を含み高温で調理された食品(スナック菓子、冷凍食品など)
には、トランス脂肪酸が多く含まれていることがわかりました。

トランス脂肪酸は反芻動物の腸内細菌によってつくられ、反芻動物(牛、羊、馬、ヤギなど)の肉や乳脂肪中に含まれますが、それ以外の自然な状態では存在しない脂肪酸です。
細胞膜をつくるためには不飽和結合部で折れ曲がった天然に存在するシス型の構造が必要です。直線構造をしたトランス型では細胞膜は弱く、壊れやすくなります。

トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血管内皮、気道粘膜、消化管粘膜、皮膚などの細胞を含め体内の細胞機能が障害されて生物反応が正常に行えなくなり、アレルギー症状・神経系の症状・腸管の症状を悪化させ、病気を引き起こします。

それを防ぐには、
@圧縮絞りでつくった植物性油脂(グレープシード油、カノーラ油など)を使う、
Aω3系の不飽和脂肪酸(αリノレン酸・・・エゴマあぶら、シソ油)を摂取する、
B高温で加熱するときにはオリーブ油、ヤシ油、ラードを使う、ことです。

参考図書:脂質の働き(金沢和樹・みんなで家庭科を)より引用、他

元気の源 EPA
EPAは魚油に含まれる健康成分です。同じ魚油のDHAと混同されがちですが両者の働きは異なります。肉食中心のイヌイットに心臓病が少ないという事実に注目したデンマーク人学者の調査をきっかけに、EPAの医学的価値が注目されるようになったのが1960年代のことです。以来、EPAに関する膨大な医学的データが蓄積され、100%近い濃度のEPAが天然由来の医薬品として医療の現場で活用されています。

EPAは血栓や高脂血症を予防したり、赤血球を軟らかくしたりします。血液をサラサラの状態に保つ働きがあり、動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞の予防につながります。摂取した過剰な油は中性脂肪として血管中を循環します。ドロドロの血液は動脈硬化のリスクを高め、血管のしなやかさを失わせます。

研究を積み重ねた結果、高濃度EPAが高脂血症の医薬品として認可され使用されていますが、その研究の過程でアレルギー体質を改善することも報告されています。アトピー性皮膚炎の人が1日1200mgのEPAを12週間摂取したところ、72%の人に改善が認められたそうです。また花粉症の症状が緩和する効果も指摘されています。

また、最近の研究でEPAは脂肪分解にかかわる転写因子を活性化させて脂肪分解酵素の量を増やし、脂肪合成にかかわる転写因子の量を減らして、脂肪合成酵素を低下させることが分かってきました。EPAは脂肪の分解を促すと同時に、体内に脂質が蓄積するのを効率よく抑える役割を果たしているようです。EPAは内臓肥満の改善にも有用な栄養素といえます。

また、魚油がうつ病に効果があるという報告がフィンランドの研究でなされています。文部科学省の研究班の調査で魚を多く食べる人は食べない人に比べ、4割以上乳がんになるリスクが低いこともわかりました。

メタボリックシンドロームを防ぐためにも魚油を積極的に取り入れたいものです。青魚を食べる量が少ない現代人は、1日のEPA摂取量の目安750mg(マイワシ1〜2匹相当)はなかなか摂取できないのが現状です。青魚のメニューを増やすと同時に、不足しそうな分はサプリメントで補ってみてはどうでしょうか?(医療用医薬品のEPAが近々OTC薬として薬局で販売できる見込みでしたが、学会の反対でなかなか認可されません)。

参考図書:産経新聞記事・からだ“元気の源EPA”、日本水産資料、日水製薬資料他