健康に関する話題⑨
◆ライフスタイル・ドラッグとは?◆

ライフスタイル・ドラッグは、日本語では「生活改善薬」と言われています。病気と言うほどの症状ではないが、日常生活をおくるうえで、不快・不便を感じるので、その症状を改善することで、より快適な生活をおくることができるようにする薬のことです。

ライフスタイル・ドラッグは、アメリカでは10数年前から普及し始めたもので、抗うつ剤、ED治療薬(勃起不全)、禁煙補助剤、抗肥満薬、発毛促進剤などがあり、まだまだ数が増えていくようです。日本でも薬局の店頭で直接購入できるものと、医師の処方箋・指示書で購入できるものとがあります。

世界的なライフスタイル・ドラッグの市場の将来予測によると、その中には「うつ病」「経口避妊薬」「性機能不全」「禁煙」「肥満」「脱毛」「肌の老化」などの項目の増加が予想されています。

しかし、生活するうえで不快・不便な症状を改善することに関しては、漢方薬が役にたつ部分がかなりあるのではないかと考えます。その一つに「性機能不全」に対する中国の古典の考え方について書かれた本がありましたのでご紹介致します。

寝ること、食べることそして性欲は、動物のもつ三大本能です。寝ることと食べることについては、命のあるかぎりつきまとうものですが、性欲だけは年齢という壁があり限りがあります。動物の世界では生殖機能がなくなるということは死を意味し、人間だけが例外なのです。限りがあるものだけに古代からいろいろな薬物が探求されてきたようです。

週刊誌によれば日本人の年間セックス回数は、先進国で最低であると書かれていますが、世界中、どの民族をみてもセックスに貪欲でない民族はいないと思います。が、中でも古代中国人ほど傑出した民族はいないと思われます。それは、古代中国にはセックスに関する数多くの著作があり、しかもそれらは単にセックスを楽しむものだけでなく、セックスを通じていかに健康を増強し維持するかに力点がおかれて書かれているからです。

代表的な古典には「素女経」、「素女方」、「玉房秘訣」、「玉房指要」、「清朝宮廷医薬秘芨」などがあり、わが国最古の医書である平安時代の「医心方」もそれ等の古典を元にしているそうです。貝原益軒の「養生訓」の中にある「接して漏らさず」はこの「医心方」からの引用といわれています。

代表的な古代中国での強精強壮剤
①鹿茸精(千金方)
鹿茸は鹿のまだ成長していない角のことで、鹿は元来一夫多妻でその精力は絶倫とされ、古来から強精の要薬とされています。
②至宝三鞭丸(南宋宮廷直伝の処方)
三鞭とは海狗、鹿、広狗のペニスと睾丸のことです。体力の衰えや精神疲労からくる精力減退に、女性で疲れやすく性欲の起こらないものに用いられてきました。
③海馬補腎丸(清代名医の秘伝の処方)
海馬を中心に鹿茸、驢馬・海狗・鹿の陰茎と睾丸などの動物生薬と、植物性の強精薬である人参・黄耆・補骨脂や補腎剤が配合され、腎虚による精力減退や女性の機能不全に用いられてきました。
④参茸補血丸
鹿茸と人参を中心に当帰、黄耆、杜仲などの植物性強壮薬を配合して、栄養状態を改善することで、強壮強精をはかる目的でつくられた処方です。
⑤天王補心丹(元代の世医得効方に収載)
植物性の薬物で構成され、茯神、遠志、酸棗仁などの神経強壮薬が中心で、心即ち精神、神経を補うことで精神的な要因に基づく精力減退、不感症などに用いられてきました。
⑥禿鶏散(唐代の洞玄子に書かれている処方)
この処方の名前の由来は、昔、蜀郡(今の四川省)の知事・呂敬大は精力が弱く子供がいなかった。70歳のとき、この薬をのんで3人の男児をつくったが、この薬の作用が強く、毎晩交接するので夫人が玉門を痛め倒れたため困ってこの薬を庭に捨ててしまった。それを庭にいた雄鶏が食べて、食べ終わるや雌鶏の背にのり何日も交尾し、雌鶏の頭冠を啄ばんだので頭冠が禿げてしまった。以後、この薬を禿鶏散と呼ぶようになったそうです。

どうでしょうか、バイアグラより余程ユーモアに富み、服んで楽しく感じると思いませんか?これ等の薬は、現在でも店頭に存在しますが、効能効果は、「滋養強壮、肉体疲労、虚弱体質」となっていますので、付記しておきます。

『早朝勃起は快調勃起』 (札幌医大名誉教授 熊本悦明先生)
2011年4月27日と5月2日の読売新聞(yomiDr.)「医療と介護」・ブログ高齢者の性(岩永道子記者)の中に、次のような記事がありましたのでご紹介いたします。
札幌医大名誉教授の熊本悦明先生の寄稿文です(以下要約します)。
朝立ちは、夜の睡眠中、レム睡眠に関連して自然に起きる勃起で、寝ているときに全機能が休んでしまえば死んでしまうので夜の神経である副交感神経が定期的にアクセルを踏んで内臓を刺激しているのです。ペニスも内臓の一部として腸と一緒に反応して自然に勃起している訳です。この夜間睡眠時の勃起現象は、男の性の基本的な生理反応であり“男の生理”と言えます。しかし、加齢により男性ホルモンのレベルが低下してくると陰茎血管系に問題が生じてきます。①一酸化窒素(NO)を出す能力が低下し充分な血液流入が起こらず勃起が弱くなってくること、②内臓脂肪肥満が起きて血管壁の動脈硬化が促進されること、この2つの因子が折り重なって血管障害が進行してくるのです。
最近、臨床上極めて重要な問題として注目され始めていることは、この血管障害の現象が、身体の細い血管のほうから起きてくることなのです。身体の臓器血管の中で一番細いのはペニスで1~2mm、そして心臓が3~4mm、脳が5~8mmなのです。細いペニスの血管障害で勃起障害になっていることは、同じ病変が全身的に秘かに進行しており、徐々に心臓更に脳の血管障害にも発展しつつあることを示唆しています。・・・・・

参考図書:ハゲ、インポテンス、アルツハイマーの薬(宮田親平著・文春新書)、中国若がえりの秘薬(根本光人著・健友館)、yomiuriDrブログ高齢者の性ほか