生薬のお話@

◆牛黄(ごおう)◆

牛黄とは、牛の胆嚢などにできた胆石を乾燥したものです。この胆石は牛数千頭に1頭の割合でしか発見できない貴重なものです。値段が高いために古来偽物が多く、粉末にしてしまうと区別が難しくなるため「日本薬局方」では粉末にしたものは適合品とは認めていません。
日本最古の法典「律令」に、国の所有する馬や牛が死んだら皮、角などは集めておき、もし牛黄が見つかったら政府に献上せよと記されています。中国最古の薬物書「神農本草経」には、365種類の薬物が、上薬、中薬、下薬にわけ記載されていますが、牛黄は上薬(毒がなく服み続けても害がなく、寿命を延ばすもの)として記載されています。5世紀頃のインドの経典「金光明経」にも記載があることから、仏教とともに奈良朝以前に日本へ伝来したものと考えられます。

日本薬局方には「主として配合剤の原料とする。動悸による不安感の鎮静、暑気あたりに対する苦味清涼、のどの痛みの寛解に頓服する」と収載され、滋養強壮薬、強心薬、小児用薬、風邪薬、胃腸薬などに使用されています。

動物実験で確認されている作用には、次のようなものがあります。
@強心作用、A鎮静作用、B鎮痙作用、C赤血球新生促進作用、D解熱作用、E血圧上昇および降下作用、F利胆作用、G血管透過性抑制作用、H心収縮亢進作用、I白血球遊走抑制作用。

薬草書の古典「神農本草経」や「神農本草経集註」などには、急に何かに驚いて卒倒し人事不省になった者、高熱が続き痙攣を起したり精神に異常をきたした者、小児の百病、大人の精神錯乱、健忘などの治療に使うことが記されています。

中医学では「牛黄」は芳香性開竅薬に分類されます。
薬理作用としては、開竅化痰・清熱解毒・定驚、鎮静・強心・造血作用があり、
臨床応用として@感染性疾患の敗血症初期で、高熱・意識障害・煩燥・痙攣発作などの神経障害があるとき、A慢性肝炎で肝機能が悪く、血清トランスアミナーゼ値が下降しないとき、B脳卒中による意識障害で痰が多いときなどがあげられています。

近代漢方薬ハンドブックには、@胆汁分泌を盛んにする、A高血圧を下げる、B強心剤である、C解熱、鎮静作用があると記されています。

漢方的考察では、牛黄は[薬味・薬性]は苦・涼、[帰経]は心・肝経、[薬能]はひどい疲労、高熱、精力減退、血圧異常、自律神経失調、肝疾患、心筋梗塞や脳卒中、糖尿、喉の炎症や風邪などの症に用いることになります。

牛黄を配合した医療用漢方薬はありません。
一般用OTC薬では次のようなものがあります。
六神丸、救心、律鼓心、宇津救命丸、樋屋奇応丸、霊黄参、救心感応丸気、正野萬病感応丸、日水清心丸、保元黄、牛龍王、牛黄カプセル、オキソピン、牛黄清心元などがあります。

参考図書:生薬牛黄の話(救心)、牛黄のはなし(日水製薬)、漢薬の臨床(中山医学院編・神戸中学研究会訳・医歯薬出版)、近代漢方薬ハンドブック(高橋良忠著・薬局新聞社)他