生薬のお話④

◆田七(でんしち)◆

田七は中国では医薬品ですが、日本ではまだ医薬品として認められていません。田七が注目されたのは、先のベトナム戦争で止血の特効薬として使われたことが知れわたったことからです。

田七は、ウコギ科の多年生草本で、朝鮮人参と同し科の植物です。播種してから3年ないし7年後に収穫できることから、産地の人は三七とか、葉の形から参三七ともいい、一般には田七、産地名を入れて雲南田七と称しています。普通は根の部分を利用しますが、葉にも薬効があることが「本草綱目」に記されています。また、花を用いた田七花精が中国では販売されています。

薬草学の最高の古典である「本草綱目」には、釈名山漆、金不換と記されています。黄金に換えられないほど貴重なものとして取り扱っていたということです。止血効果が高いことから、漆のように傷口に癒合するとして山漆(さんち)と称したともいわれています。

本草綱目には「血を止め、瘀血(おけつ)を溜めず、痛みを鎮め、腫を消す」と記されています。また、近年の研究では、血圧降下作用、肝臓障害抑制、脂質低下作用、抗がん促進作用などが報告されており、ニンジンの王様ともいわれています。

特に有効成分のサポニンは、高麗人参の0.3~3%に対して田七には7~12%も含まれています。その他、田七には心臓疾患に有効なフラボン配糖体、止血作用をもつデンシチン、抗がん作用のあるアセチレン化合物、各種必須アミノ酸、重要なミネラルが豊富に含まれています。

田七サポニンの薬効には、血流改善、血栓の予防と治療、抗糖尿病作用、たんぱく質・核酸の合成促進、神経細胞活性化、脂質合成と分解の促進、降圧作用、中枢神経の鎮静・興奮、免疫力の増強、疲労回復、鎮静作用、精力増強などが認められています。

田七は中医学では止血薬に分類され、[味]は甘・微苦、[性]は温、[帰経]は肝・腎経で、薬理作用は止血・去痰・消腫・止痛で、①止血、②消炎、③冠血流量の増加、④抗ウイルス・抗真菌などの作用があるとされています。

中医学では臨床応用として、止血・去痰の主薬で、①打撲捻挫による内出血・外傷による出血で血(けつお)による腫脹疼痛のあるとき、②吐血・喀血に、③不正性器出血・月経過多に、④血液疾患による出血に、⑤脳出血の初期の意識障害・言語障害に、この他、冠不全にも一定の効果があるとされています。

日本では医薬品ではなく、健康食品として、雲南田七、田三七、文山田七、田七人参などの名称で販売されています。田七の等級は「何個で500gになるか」ということで決められ、「大きさ」を「頭」という単位で表します。10~19個で500gの田七が「十頭根」で一等級品に相当します。一般に市販されているものでは、80頭根が多いようです。

日中国交回復がなされた1972年に中国を訪れた田中角栄首相に、周恩来首相が「これは中国の秘薬です」と贈ったのが輸出禁止品目の「十頭根の田七人参」だったといわれています。その後も長い間、十頭根の田七人参は門外不出だったので入手することが困難でしたが、最近日本にも入ってきるようになりました。

*「お」という字は、“ヤマイダレ”に於と書きます。

参考図書:中国の秘薬“雲南田七”(岡本彰文・岡本由利共著・藤森書店)、田七人参(大阪薬科大学・馬場きみ江助教授の小冊子)他